映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

川島雄三監督「わが町」2324本目

冒頭の南洋語りはちょっと見慣れない感じで面白い。

それが終わってタイトルが出てからは、急に関西弁で人情ものの世界。私はこの時代は知らないけど、まだがらんとした町なかの様子、いろいろあるけどみんな一生懸命だった時代の人たち、なんだか懐かしさがこみあげてくるのはなぜだろう?

殿山泰司北林谷栄も若い(若いのに老けた演技がうますぎる、二人とも)!大坂史郎は懐かしいけど、いつから見なくなったんだろう?そして辰巳柳太郎って骨太な二枚目なのに明るくて愉快で、素敵ですね。豪放磊落、ごうほうらいらくってこういう感じを言うのかしら。二枚目然としていない、親しみのわく人気者。最近こういうキャラクターっていないなぁ。

でもこの映画のなかの彼はとことんダメ男。心は熱いが想いばかりで、大事な妻、娘、孫を苦しめてばかり。この世界では人はもともと弱いもの。二枚目でもダメ男、いくら一生懸命にがんばっても裏目に出ることばかり。・・・いまの世の中にはこういう、やさしい諦念みたいなものがなくなってしまった。人はみんながんばれば報われる、お金持ちは悪いことをしてるからだ、自分はかわいそうだ、と思ってどんどん不幸になってる。そんな立派なもんじゃないって、人間って。がんばってなんでも思い通りになる人なんてあんまりいないってば。原作の織田作之助は「夫婦善哉」の作者でもある。歌舞伎や大衆演劇で育った世代の現代作家って感じですね。20歳頃までに見たら、「ダメな男を主役にしたりして、いやだわ。真面目に頑張った人が報われなきゃ!」と私も思ったかもしれないけど、おばちゃんになってみると、この映画の時代がいいなぁ・・・。

若い世代を代表するのが、生まれ変わった南田洋子三橋達也。彼女はとにかく清楚で美しく気丈で、彼は精悍で地に足がついている。彼らがこの時代の「これから」だったんだな。

この時代のプラネタリウムというのは、機械だけど影絵みたいにロマンチックでいいですね。

そしてこの映画を見ていて初めて知った驚愕の事実(映画の筋となんの関係もない)。フィリピンは北半球なのに南十字星が見えるのだ、ときいて調べてみたら、石垣島でも宮古島でも普通に見えるらしい。本州でも見える場所があるらいし。なんということだ!今度見なければ! 

わが町 [DVD]

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