映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

是枝裕和監督「真実」2304本目

賞をとった監督がすぐに外国の俳優で撮る映画は、ふだんの映画より面白くないというジンクスが私の中にあって(偏見かな)、かなりドキドキしながら見ましたが、是枝監督のドラマチックな作品(「誰も知らない」万引き家族」とか・・・少なくとも中で誰かが死ぬ作品)とは違う、地味な佳作のほうに属するいい映画だったんじゃないかなと思います。今までの日本的生活文化や情緒がたっぷりの作品とは違って、いろいろフレンチ感があったけど、フランス人から見たらどうなんだろう?

カトリーヌ・ドヌーヴはいつ映画で見ても隙ひとつなく、弱い役をやっても悪い役をやっても、あまり人間みがなく端正だなと思ってたので、この映画でとうとう初めていやらしい人間性のにじみ出る役をやったと思いました。口元がひくひくする演技とか。改めて、是枝監督の映画に出てくる人はだいたいみんな、心のなかに多少ゆがみがあって、ろくでもないこともするんだけど、それが愛される人間性にもつながってる。フランス映画の登場人物にはそういう「ゆがみ」を感じることってあまりなくて、もっとみんな意見や感情がストレートな感じがしてたので、この微妙な違いをどう感じてるのか、違和感があるのかないのか知りたいです。

ジュリエット・ビノシュの役柄は、逆にそれほど違和感はないんだけど、最近の彼女は若いころのふわふわした不思議ちゃん役とは違って、戦場カメラマンとか、強い主義主張を持つ成熟した大人が多いので、普段の役柄からみると親子関係のこまごましたことに終始していてスケールが小さい感じがしなくもないです。

イーサン・ホークは一番はまり役なんじゃないかな?健康的で元アル中には見えないけど、妻の親や娘の機嫌を気配りするアメリカ人夫にぴったり。フランソワ・オゾン監督作品の常連リュディヴィーヌ・サニエは、今回はまったく毒のない役。劇中映画で年を取らない母の役を演じるマノン・クラヴェルは若さでいっぱいなのに話すトーンが低くて、そのギャップに引き付けるものがあります。

フランス映画と日本映画の違いは、フランス映画の登場人物たちは意地悪である自分を確信犯的に肯定した鋼鉄のような自我をもっている一方、日本映画の人たちは常に迷い、とまどいながら、周囲とコミュニケーションをとることで自分の立ち位置を確認しながら、おそるおそる歩いている。という点だ。この映画は監督・脚本の是枝氏の世界がやっぱり日本だから、日本的自分になれているかどうか、演じる人たちも手探りだったんじゃないかなー、と深読みしました。

この映画でも、台本を使わずに場面の趣旨だけを伝える演出をしたのかな。どの国の映画人も、是枝監督の制作手法や出来上がった作品のメッセージや思想に興味深々で、関われることはきっと、予想できないものだったとしても、ワクワクしながら臨んだんだろうな。

という風に、最初は懐疑的だった私も、「是枝組」の丁寧な作品作りで完成した映画を楽しめたし、背景を想像して二度楽しみました。この映画は、2年とか5年とか時間を置いてまた見てみたいな。

※ ファビアンヌがマノンにプレゼントする自分の若いころのワンピースは、「昼顔」で彼女が着たものにソックリ。これってオマージュっていうの?