映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

トッド・フィリップス監督「ジョーカー」2297本目

見ごたえありましたよ。ここまで「悪」の側に共感させる映画ってそんなにないのでは?といっても、映画でも言ってたけど善と悪ってのは時代によって移り変わる相対的なものだし、今は「今まで悪と呼ばれてきたものにも背景があるんだ」という主張がいちばん響く時代なのかもしれません。

とにかくホアキン・フェニックスが120分中115分くらい出てて、彼の演技があまりにも秀逸なので、この映画は「超ホアキン・フェニックス劇場」だし、この映画の彼以外にアカデミー主演男優賞にふさわしい人がいるんだったら教えてほしいくらい。

どう秀逸かというと、カメラや演出もだけど、ジョーカーという中年男の醜い部分、卑しい部分、愚かな部分、卑怯で卑屈な部分、そういうのをエゴン・シーレの絵みたいにさらけ出して見せた。愛嬌もやさしさも何も与えず、カッコいい悪のイメージも持たせず。ここまでやり切れる俳優ってほんとにすごい、としか言えないです。

バットマンの映画はそれほど真剣に見てこなかったので、この映画のジョーカーが原作や過去の作品に忠実なのかどうかはわからないけど、私の中のイメージとはわりと遠いかもしれない。つまり、影も裏も底もない明るくて悪いジョーカーをイメージしてました。なんか、単純に類型化して楽に考えていたものをすべて覆して、「何もかも疑ってかかれ」と言われたようで、明日から生きづらくなりそうな映画でした・・・。(何をおおげさな)