映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

ハワード・ヒューズ監督「地獄の天使」2290本目

舞台はヨーロッパだけど、1930年のアメリカ映画。

「ヘルスエンジェルス」といえば、極悪暴走ギャングの名前だと思ったら、実際、関係ありました。あちこち探しまわって、「hells-angels.com」でやっと見つけたところによると、第二次大戦時にアメリカ軍にこの映画にちなんだ名前の飛行部隊があって、そこから生還した人が「ヘルズ・エンジェルズ・モーターサイクル・クラブ」の設立にかかわったんですって。やっとつながった。(てことは退役軍人が暴走族になるのか、)

映画の中を見ると、オックスフォードの学生兄弟がずいぶん貫禄あるなぁ、ペタッと七三分けだし。女性たちは裸みたいな薄物を、まるでアール・デコの絵画みたいに着こなしていて、とても不自然ないでたちが流行っていたことがわかります。1930年代を描いた映画はいくつもあるけど、その時代に作られた映画を見ると、その時代の感覚がすこし透けて見えてきてとても面白い。

まるでサイレント映画みたいに、冒頭やところどころ、文字だけの画面があるんだけど、パーティの場面は、なんとカラー。そういう違和感も面白い。

弟くんは女好きだけど、このヘレンって女もチャラい。兄の女が弟とできてしまう、というドラマかと思っていたら、局面は一気に戦争へと・・・。しばらく目を離した隙に、すっかり戦争映画になっていました。第一次世界大戦です。

弟が不倫で撃ち殺されそうになったときに兄が身代わりになるあたりから、ちょっと挺身しすぎで変な感じだったんだけど、最後は結局、色恋でも家族愛でもなく、お国のために身をささげるという映画でした。戦争の場面は、実物を飛ばして実弾を落としているんですよね。やっとトーキーになった時代ですから。戦闘機の飛行音って怖い・・・。そういう戦争映画だったのでした。

最後に兄弟を尋問するドイツ軍の高官は、以前決闘を挑んできた、弟の愛人の夫ですね。色恋も戦争のためのスパイスだったのか。

地獄の天使たちって誰だったの?戦場の女たち、というにはメインの女性は一人だけだし、天使のようだったのはこの兄弟愛とも思える。

弟役のベン・ライオンがその後プロデューサーになってマリリン・モンローの名付け親になったんですってね。未来の私たちが歴史をさかのぼってわかる、逆時系列上の事実がなんだか感慨深いです。 

地獄の天使 [DVD]

地獄の天使 [DVD]