映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

小松莊一良 監督「フジコ・ヘミングの時間」2071本目

 不思議な人だ。初めて見聞きしたときは、なんだか怖いおばちゃんだなぁ、とか、なんて気の毒な人だろう、とか思ったけど、人間って、というか彼女は多分、私ごときが心配するほど虚弱ではなくて、神様から何かとてつもなく美しいものを持たされて地球に落ちてきた人なんだろうと思う。

普段クラシックを全く聞かずにいい年になってしまったけど、音を聞いて戦慄したピアニストが何人かいて、フジコ・ヘミングはその一人。時々間違えるかどうか、って問題ではなくて、音色が・・・多分同じピアノでも全く違っていて、柔かくて温度が暖かくて、一つ一つの音が全部つながってる。人の声みたいに鳴るんだよね。彼女のピアノを聞いてるとじわっと不思議な気持ちになる。

夜中のドキュメンタリー番組で取り上げられたと聞いて調べたら、やっぱり「ETV特集」。極端でマイナーな題材を取り上げるNHKの極北(注:主観)にある視聴率も低いあの番組だからこそ取り上げられたわけで、たまたま番組企画が通らなければ彼女は今もずっと、天才的なピアノ教師と呼ばれていたのかな。

最近は、人目につくことが幸せなわけじゃないと思えるようになったので、愛猫と愛犬と友人たちと自分が生まれる前からの家族、親戚の写真に包まれて、愛のようなピアノを弾き続けて、彼女は今も昔もそれでいいんだという気がします。

私は彼女がドキュメンタリーに取り上げられて、彼女の音と出会うことができて、すごくよかったです。

フジコ・ヘミングの時間

フジコ・ヘミングの時間