映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

ヴェルナー・ヘルツォーク 監督「カスパー・ハウザーの謎」2058本目

Amazonプライムのリストを見てたらこれがあって、何十年も前に聞いたようなタイトルに、昔のかすかな記憶を刺激されて借りてみました。ただし借りたのはTSUTAYA宅配レンタルです(今はこっちが少し安い)。今この映画みる人っているんだろうか。

ジャケットのカスパー・ハウザーの写真、エレカシの宮本がテンパってるときみたいな表情。この人が実際にやんごとなきお方の落としだねであったとして、運よくいい人に拾われていたら、幼き頃より秀でた才能を発露し、自助努力と強運によって本来の王の地位まで上り詰める、というファンタジー・ノベルになるんだろうけど、これが実在の人で、生まれはどうあろうと人に十分心を開くこともなく落命したという事実はあまりにも切ない。この人のことを思い出すともう「精霊の守り人」とか、運命の曲がり角を曲がり損ねた彼のことを思い出さずに見ることができなくなりそう。

表情をひとつも変えないんだけど、黙って涙をたらーっと流すのが、なんともいたいけで。こういう人っているよね。うまく(俺は悲しいんだぞ!)ってアピールもできずに、ただ悲しむ純粋な人って。笑いかたや泣き方って、周囲の人を見て学ぶものなのかもね。

カスパー役のブルーノ・Sの、完全にカスパーにしか見えない熱演と、感情的にならない演出のおかげで、胸を揺さぶる作品になっています。これ見てよかったなぁ。