映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

ガス・ヴァン・サント 監督「ミルク」1790本目

切なくて、申し訳ない。

私がアメリカ西海岸の会社の日本法人で働いてた1990〜2000年代に、親会社のオフィスにはしっかりしたLGBTコミュニティがあって、結構えらい人も加入してるらしかった。ゲイやレズビアンはオフィスにレインボーフラグを立ててたくさん働いてたし、ボスのパーティに行くと女性同士のカップルが可愛い女の子を連れてたり、両耳に全部で20〜30個もピアスをしたバイセクシュアルの男性もいた。会社にはマイノリティを保護する施策をいいことに、仕事をよく怠けるゲイのおっさんもいた。それが普通で、そのおっさんも、仕事はしないけど、どうやって見つけたんだろうと不思議に思うようなおしゃれなスポットをいくつも教えてくれた。なんども言うけど、それが普通で、クビになる時はLGBTだろうがストレートだろうが平等にクビになった。

アメリカの西海岸はヒッピームーブメントの頃から自由でヒップな文化が根付いてて、さほどの苦労もなくそんな平等や自由が享有できたんだとずっと思ってた。何も知らなかった。アメリカは自由の国だよな〜、と思ってた。
憎しみの連鎖。
誰にも守られずに独力で未開墾地を耕してきて、どこまで行っても優遇されることもない普通のヨーロッパ系の移民の子孫たちのフラストレーション。勇気を持って立ち上がったハーヴェイ・ミルクとその支持者たちの苦しみ。祈り
何も知らなくて本当にごめんなさい。

苦い歴史を持たない人なんていないのかもね。
みんなの痛みを受けとめて、慰めてあげられる人にいつかなりたいもんです。今生では無理かも。

さて映画については、ショーン・ペンは本当に我を出さずに触媒のように演じられる素晴らしい俳優ですね。
彼を取り巻く極めてチャーミングなゲイの青年たちの中で、メキシカンのディエゴ・ルナ演じるジャックの儚い可愛さはとびきり切なかったです。なんてバカなの。なんて一途なの。
ハーヴェイはずっと、彼を悲しませた自分は、いつか暗殺される覚悟で政治家をやり抜こうと思ってたんじゃないかな。

ガス・ヴァン・サント監督の映画は、名画もそうでない映画も切なくて美しいです。これは名画の方。

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