映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

マルコ・ベロッキオ 監督「甘き人生」1787本目

イタリアの映画を見ることってほんとにないなぁ。
イタリア人にも暗い大人がいるし、お経をみんなで唱える仏教徒もいるし、マッシモの住んでいた家の廊下は19世紀の油絵みたいに美しいし、彼が働いてる会社はびっくりするくらい年をとった人が何人も働いていて・・・色々と意外なことが多い。

時系列を行ったり来たりする構成だけど、マザコン映画なのだ(簡単に言いすぎてごめんなさい)と思いながら見れば、難しいことはないです。どれほど引きずるかは、どれほど幸せだったか、どれほど愛していたかに比例するんじゃないかと思います。抑えている時間が長く、押さえつけてきた力が強いほど、流して先に進むのが難しくなる。古今東西、どこにでも通用する真理だ。
彼が回答した投書を書いた人は、回答を読み上げてちょっとキョトンとしてた?お母さんも?
誰もが同じ思いを持つわけじゃないから。

本当のことは、知りたいと思って調べて回らなければ手に入らない。「僕は臆病者だ、知ろうとしなかった」。
30代の中二病が、やっと真実を知ることから始まる。大人の国だと思ってたイタリアにも、わだかまってる大人がいる。ちゃんちゃらおかしくて、自分のことのように切ない。

テーマはかなり”ありがち”だし、立派なお手本のようなお話ではないけど、やけに深く感情移入できてしまう。
それはこの監督が、深い感情を、言葉じゃなくて、見たり聞いたり触ったりするもの全てで表現しようとしてるからかな。名回答を書いてブラボーな感じになって、そのまま美談っぽく終わるようなことをしないでいてくれてよかった。うん、これは名作だ。なんかすごく地味だけど、深い。

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