映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

オスカー・ロエラー 監督「素粒子」1758本目

2006年のドイツ映画。
この映画を見たきっかけは、島田雅彦沼野充義の「世界の辺境文学」っていうレクチャーを聞きに行ったら、紹介された12冊の中にフランスのミシェル・ウェルベックって作家の「服従」って本がありました。これが”フランス極右の暴力的な政治活動に嫌気がさした国民が、穏健派のイスラム党派を選んでフランスにイスラム国家が誕生する”って話なんだけど、語り口は村上春樹みたいにクールで内向的なの。すごいもの読んじゃったなーと思ってたら、同じ作家のベストセラーがドイツで映画化されてるというので、見てみました、という次第。
フランスの現代小説がドイツで映画化されるなんてことあるんだな。日本ではそれほど話題にならなかったと思うけど。

この映画もなかなか強烈で、大人でないとついていけません。でも語り口は、対象から少し、1メートルくらい距離を置いているので、ブルーノがいくら逆上しても落ち着いて見られます。「服従」を読んだとき、作家は割と”つめたい”文章を書くという印象だったけど、この映画はメイキング映像で監督が語っているように、「最後に希望も持たせた」という、暖かい人間味も感じられる作品になっています。

こういう映画が日本でも大ヒットする日が来る気はしないな・・・。面白いと思うけど、これをどう語ったらいいのか、私にもまだ全然わからないからです。「終わりの始まり」みたいな映画、って捉えればいいんだろうか。

役者さんは皆いいです。欲望を抑えることができない兄になりきったモーリッツ・ブライブトロイ、キャラクターはだいぶ違うけど見事に割れたゲルマン的なあごで「ラン・ローラ・ラン」と同じ女優さんだとわかったフランカ・ポテンテ、性を研究対象としてしかとらえてこなかった弟を、本当にいそうな感じで演じたクリスティアン・ウルメン、優しくちょっと崩れたクリスティーナを演じたマルティナ・ゲデックも素敵でした。

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