映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

荻上直子監督「彼らが本気で編むときは、」1730本目

なんでタイトルが「彼女が本気で編むときは」じゃないんだろう。
「彼ら」は単にTheyにあたるものでジェンダーまで気にすんなってことか??

この映画って最初から最後まで、生田斗真演じる天使のようなトランスジェンダー「リンコ」がやさしくて綺麗で(思ったほど女性には見えないけど)いい映画だなぁと思うのですが、唯一、母「ヒロミ」(天使のようなミムラが今回ばかりは悪女)と「ナオミ」(小池栄子が頭の固い母役)は単純な悪役でなんの救いも与えられません。昨今は育児に問題がある母の追い詰められた心情とかが語られることも多いけど、映画では天使のトランスジェンダー・リンコvs悪魔の母ヒロミ&ナオミ、という二項対決が描かれます。
注目されるユニークな人のほうが善である!と声高に主張しすぎるのも差別の一種だと思うので、そこがちょっと気持ちよくなかったです。いじめられたので、自分もいじめる。単純にいじめた相手への反撃になることって少なくて、母にやられたら子にやる、というように、連綿と弱いものに負荷がかかりつづけるのが負の連鎖。この映画で救われるべきなのは二人の母たちなのかもと思います。彼女たちにも何かを編ませてあげればいいのに。

リンコたちが編み続けるものは、草間彌生的で愉快でした。本当は誰だって、捨ててきたものがあるのかも。私は何を編めばいいかな・・・。