映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

ルイ・マル監督「ルシアンの青春」1718本目

1973年の作品。
ゲシュタポが狙っているのは無垢で染まりやすい、日常に不満を持った若者だ。ルシアンは、ヤクザに誘われた少年のように、ISに取り込まれた少年のように、あっさりと染まっていく。素敵な女の子に出会えばすぐに声をかける。追っ手が来れば逃げる。彼の行動は直感的で唐突だ。

ゲシュタポの青年とユダヤ人の少女が恋をするという解説を読んで、囚われた人に看守が恋をしたような話かと思ったら、パリでは彼が彼女の家に通えたんだ。信じられないようなことができる、でも、周囲の人たちも彼女の家族もみんな「信じられないことをしてる」と思っていて、違和感にあふれてる。そういう目立つことをすると、結局は引き裂かれる。この映画の場合、最後の最後にこの二人の恋愛がどうなったのかは語られない。(ルシアンのことだけ。)

ルシアンは結構「自己中」な男なので、世界のどこに生まれてもすぐに手が出るやくざになったんじゃないかという気がするけど、監督がこの人を描きたくなったポイントはどこにあったんだろう。

ルシアンに似た俳優がいたな、本人かな?と思って調べたら、この人はこの映画の2年後にわずか20歳で亡くなっていたのですね。切ないなぁ。

ルシアンの青春 [DVD]

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