映画と人とわたし

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

アッバス・キアロスタミ監督「桜桃の味」1717本目

この年のカンヌで今村昌平「うなぎ」とパルム・ドールを2作品で受賞した、その片方。
見てよかった。人生って何?を暖かく諭そうとする、昔話みたいな映画。
会話から、ここはイランの首都テヘランのどこかだと推測されるんだけど、どこまで行っても草木の少ない砂漠みたいな土地です。ウズベキスタンで行ったカラクルパクスタンっていう砂漠地域みたいだ。クルド人、アフガン人、トルコ人、といろんな人が住んでいます。トルコの「ナスレッディン・ホッジャ」っていうおじいさんが出てくるおとぎ話みたいだ。
主人公は今夜薬を飲んで穴に入って死のうとしていて、介助を誰かに頼もうと人を探している。死にたい理由が不明なままなのがいい。軍人(新人)聖職者(見習い)にも救えないものが、剥製技師によって少しだけ心が動かされる、というのがいい。単純に「おお、私は死ぬのをやめるよ」という成り行きにならず、剥製師を追ってしつこく質問をするのは、主人公の彼の心のどこかに少しだけ、桜桃(あるいは桑の実?)の味や舌触りが蘇ってきてるってことだ。
主人公の顔がいい。まだパワーをたくさん秘めてるのに虚無を見ている表情。
みんなお節介で親切なのもいい。

ラストに向けて、穴の中でまだ目を開けている主人公にはげしい雷と雨が降りかかるのが、悪い予感を感じさせるけど、ちょっと唐突なエンディングで出演者たちが見せる屈託ゼロの笑顔に、気持ちが少し明るくなる。

映画製作者の視点は、この映画の中で生きる人たちにとっては「神の視点」だ。乱暴な言い方をすると、「いいんだよ、死んでも。」と優しく声をかけてくるような。

平成も終わろうとしている2018年にコンバータ介してVHSで見たので、画面の砂っぽさとか表情の美しさとかまで受け取れなかったのは残念。しかしこの監督の「神の視点」は気になるので、引き続き他の作品も見てみたいです。