映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

ルイス・ブニュエル監督「エル」1713本目

何十年も前に、淀川長治の洋画ベスト100か何かでこの映画の名前を見たことがあって、いつか見たいと思っていました。TSUTAYAの店舗にVHSがあったので借りて見ることができました!

1952年のメキシコ映画。見たところスペイン人のスペイン語の映画だけど、スペイン人がこちらに移り住んでいるという状況を見ると、この当時はスペインの影響が大きかったのかな?

映画は、敬虔で利己的な中年男が、教会で見かけた美女に一目惚れする。彼女が友人の婚約者であることを知りつつ求婚し、結婚することができたが、華やかで親しみやすい彼女が男たちに囲まれるのを見るたびに嫉妬が激しく燃え盛り、脅しか、からかいか、妻を殺す振りまでするようになり、彼女は追い詰められて逃げ出そうとする。

嫉妬という感情は誰にでもあるものだし、ストーカー殺人など今もよく注目される問題です。この映画みたいに、夫が妻に嫉妬するということは太古の昔から起こっていたはずで、極めて普遍的なテーマです。極めて利己的な男ではあるけど、純情で一途で、泣きながら胸の苦しさを訴える彼を見ていると、観客もどこか同情を覚えてしまうのに違いありません。

夫も妻も、妻を取り巻く男たちも、見事にキャスティングがはまっているし、テンポ良く非常によくできていて、古さを感じる暇もなく引き込まれてあっという間にラストまで突っ走って行きます。

純粋すぎる(利己的だけど)彼は哀れで、いつも華やかな妻の方が調子いいなーという風に思えてきたら、私ももう彼のトリコ?

しかし・・・敬虔な女性だと思ったから恋に落ちたのに、教会の外では誰にでも愛想を振りまく愛嬌たっぷりの女性で、おまけに、婚約者のいる身で自分になびいたという事実が一生嫉妬心をあおり続けるのも理解できます。最後の修道院の場面で、「意外としっかりしているでしょう」と話す彼がどこに何をしに向かっていったのか・・・映画は暗転してそのまま終わってしまいます。

うん、本当にいい映画でした。VHSデッキも貸してくれるから、ぜひレンタルして見てみて欲しいです。