映画と人とわたし

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

ロマン・ポランスキー監督「テス」2022本目

昔見たけど再び見てみた。

映画の冒頭から、村の歴史か何かかじっただけの牧師がダーバヴィル家の末えいという中年男に、彼の祖先について語る場面が出てくる。原作のタイトルは「ダーバヴィル家のテス」。何がダーバヴィル家のだ・・・。貧しさから抜け出そうとする彼らの勘違いから、娘テスはこれからどれほどの痛手を受けるのか。

大学でトマス・ハーディをやったこともあってか、この物語もイギリスの美しい時代の優雅で格調高い作品だと思ってたけど、人の心のあさましさを描いたひどい世界です。レイプした男に歯向かって死刑になった少女の話とか、今でもあることを考えると、ちっとも昔の話でもない。もしこの原作で明るい映画を作れるとしたら、安藤サクラを主演に現代日本で映画化するか。(「0.5ミリ」とか「100円の恋」みたいに)理屈じゃない男の”処女愛”の残酷さ。辱めたのも男なのに。

ハーディの作品の暗さってすごい。テスもすごいけど「日陰者ジュード」(映画化タイトルは「日蔭のふたり」)も強烈に絶望的。外国に旅行してたときに、ホテルで夜中に目覚めたらこの映画をやっていて、最後まで見てしまったときの絶望感ときたら・・・。(実はこれは原作読んでなかった)

それにしてもナスターシャ・キンスキーの美しさといったら!この世にこれほど完璧な少女が実在したという事実がすごいと思うくらいです。これほど美しいということは、幸せというよりむしろ不幸だ。教会へ向かう彼女はムンクの「不安」の手前の女の子みたい。でも彼女の精神的な苦しみが描かれることはありません。決して弱い女ではないのです。運命ってなんなのかわからないまま、渦に巻き込まれてぐるぐる巻きの人生だけど、彼女が自分を見失うことはありません。だから毅然とした彼女の目は美しい。かといって、ストーンヘンジで人柱というのはちょっと観光ムービーすぎると感じるのは多分、観光地ズレする前の19世紀のこの地を知らないからなんだろうな。

ふと思う。女性は、ある程度無茶をしても心のままに生きることで喝采されるけど、男性が女性を思いのままにすることは、その後一生その人を愛し続けたとしても極悪なんだろうか?テスを最後は貴婦人のように飾り立てて彼なりに愛したアレックは、殺されて当然なんだろうか。そのうち、こういうのが男性差別だ!という声が聞こえるようになれば、女性が本当に平等を手に入れたってことなのかもね・・・。