映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

ミゲル・ゴメス 監督「熱波」1996本目

なんか好きです、この映画の空気。

私はこういう、静かに情熱を秘めた感じの映画に弱い。事実をきっちり積み重ねておきながら、アフリカの人の「予言」が当たったり、理屈で説明できない恋に溺れたりする。人間だなぁ、って思う。

よく考えると、大したこと言ってない気もする・・・面倒な隣人の秘められた若き頃のロマンスをたどる、というだけで。でもいつも書いてるけど、アイデアそのものより、それをどう表現するかが映画の価値だと思うので、あとは相性ですかね・・・。

「奔放に生きて孤独に死ぬ」という人生を映画で描くことって多いけど、この映画では「孤独に死ぬ」ってどんなふうなのかな、ということを、まず見せようとする。親切な隣人の人となりを見せる、反国連デモの様子を見せたりもする。サンタという家政婦は学がないわけでも冷たいわけでもない。娘が母に興味を持たない理由はおそらく、母の若い頃の不倫とは関係ない。

若い頃のアウロラは、可愛くてどこかポヤッとした魅力があるけど、魔性の女には全く見えない。ベントゥーラは女好きのする朗らかなイケメンだけどそんなに特徴があるわけでもない。この二人に何か魔法がかかる。二人はやすやすと、抵抗することもなく、その罠にはまる。

晩年のアウロラの隣で暮らすピラールの毎日も、アフリカでのアウロラの享楽も、同じ比重で取り上げる。

「無駄な人生なんてない」

っていうのが背景にしっかりある映画だからかな、私が好きになるのは。

ところで「Baby, I Love You」は、エンドロールを見ると、やっぱりラモーンズ・バージョンでした。哀れなマリオ君は口パクで、あんまり「女が皆惚れた」歌声は聞けなかったな〜。

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