映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

若松孝二監督「11・25自決の日 三島由紀夫と若者たち」1986本目

怖い映画なのかな〜、とビクビクしながら見てみる。でも、みんな思っただろうけど、三島由紀夫井浦新ってイメージ全然違うよね。三島のピシーッとした枢軸国軍のような雰囲気、形を極めるところから入る頭でっかちな感じと違って、井浦新は透明で感じやすく純真だ。憑依してくれたらよかったのかもしれないけど、そこまでは感じられない。

満島真之介は、これが映画デビューだったのか。思いつめる若者の役は合ってるかもしれないけど、彼が演じる三島由紀夫の右腕、森田必勝は写真を見ると秦基博みたいな感じでちょっとイメージ違う。

でも、赤穂浪士の討ち入り直前のような彼らの決起の様子は、とても興味深いです。世界大戦のために張り詰めたあと急に弛緩させられた神経のおきどころ、ノーベル賞を獲れなかった三島と、子供の頃から身の置き所のなかった森田(Wikipedia情報ですが)が何を目指せばいいのか。結局彼らが死によって起死回生を図ろうとしたのが、この事件なのだと思います。愚かなのかもしれないけど、生よりも死が大きく取り上げられ、見

方によってはもてはやされるのが、マスコミの世界だし世間の噂というものです。

市ヶ谷での演説の場面は、まるで群衆の誰も聞いてないみたいにガヤガヤと賑やかで、自決の場面は刺激少なめな描き方。三島を美化する映画じゃなくて個人的にはよかった。

3年ほど前に本屋の店頭で「面白いからとにかく読んで!」みたいなPOP付きで宣伝してた「三島由紀夫レター教室」、続けて「音楽」「獣の戯れ」と読んで、彼が当時どれほど才気溢れてイケてる流行作家だったか想像できました。この映画は、今見ると気の毒な気持ちになるほど、いきり立ってクレイジーだった彼の人間臭さを残しておきたいという若松監督の思いなんだろうな、というのが私の感想です。