映画と人とわたし

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

エミール・クストリッツァ監督「ジプシーのとき」1967本目

この監督の日本公開2作目だけど、最初の「パパは、出張中!」 ですでにパルムドールを取ってるので貫禄たっぷり。そしてそのあとの監督の映画世界にとって重要なジプシーの世界との出会いでもあります。

彼らの暮らしの私たちとの違いは、「貧しさ」とか「文明度の低さ」とか(あるかもしれないけど)ではなくて、西洋近代的なルールが通用しないことだと思う。カオスの中で人間たちは動物たちと同じところにいる。悪知恵が働く奴が金を儲けて、そのうち憎まれて、殺し合いが始まる。魔法や「超常的なこと」は生活の一部として存在する。ファンタジーアニメにしか今はない世界が、本当は元々の世界なのかもなー、と、「近代文明」のなかで息苦しくなっている人たちが、こういう映画を見てほっとする。だからこの監督の映画はヨーロッパで絶大な評価を受けるのかも。

どうしようもない小悪党たち(彼の映画の常連)のことが、監督は嫌いじゃないんだと思う。きちんと育っていい教育を受けて大企業に勤めて立派な家に住んでる人が、ボスニアヘルツェゴビナにもたくさんいると思うんだけど、監督は全然そういう人たちに興味がない。だって面白くもなんともないもん。面白いのは、ジプシーの小悪党たちや、感情豊かで演技が達者な動物たち、母なる女たち・・・。これらがベースにある人だから、監督が撮ると内戦が「アンダーグラウンド」という喧騒と豊穣と幻想の映画になるんだなと思います。監督によって彼らは全て赦されている。だからクストリッツァ監督好きなんだよなぁ。

中身のことをいうと、子供を生み落とそうとしているアズラがふわっと浮いたのは、無実だから。それに気づいたベルハンが彼女を優しく抱きしめることができて、よかったのです。(それまでのすれ違いを思うとやっぱり切ないけど) 

ジプシーのとき [DVD]

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