映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

ミヒャエル・ハネケ監督「71フラグメンツ」1694本目

オーストリアで1995年に作られた映画。
ハネケ監督って、最初の頃から徹底的にイジワルだなぁ。わかりやすくしない、期待があると思えば必ず裏切る、伝えたいことがあれば隠す。

監督のインタビューがDVDに収録されてるのですが、真っ白いヒゲでいっぱいの顔を人の良さそうな笑いで崩しながら、柔らかい言葉でそういうことを語るんですよね、この人。あまりに語りくちが柔らかいので、え、フランス語かしら、と思うけどドイツ語のはず?この人の映画は「愛、アムール」で号泣して以来ほとんど見てるけど、体が芯から冷えるような作品が多い。愛の物語だと思えたのは「愛アムール」だけだった。(新作「ハッピーエンド」も、見るからに寒そうなタイトルだ)
それでもなお見る。人間の中の、私の知らない部分に興味があるから見ずにいられない。

この映画はには、「たまたまそこに居合わせた犯人と被害者たちの、惨劇とそれまでの日常」と「悲惨に見える外の世界と、平和に見えていたけど事件が実は身近にあった日常の世界」というミクロとマクロの1つずつの対比があります。ここまでは割とわかりやすい。「・・・で、それによって何を言いたかったの?」と聞いてみれば、もしかしたら「ただ観客の期待を裏切りたかった」と言うのかもしれない。勧善懲悪、施し、カタルシス、ハッピーエンド、そういうの全部ニセモノだから、とか。映画を見てる人はそれが嘘っぱちだとよーく知った上で癒されてるんだけど、こういうトゲで刺されるような映画も見たくなるのは、それも嘘だとわかっていて、娯楽として痛みを欲するからなのか。自分という人間がわからなくなって、足元がグラグラしてくるのがこの監督の映画の特徴・・・。

ところで原題はもっと長い。英語だと「71 Fragments of a Chronology of Chance」偶発的な事件に至るまでの時系列的な71の断片、って感じなのかなぁ。場面数71でした?(←数えながら見る人はいない)

71フラグメンツ [DVD]

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