映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

白石和彌 監督「牝猫たち」1637本目

これも、日活リブートプロジェクトの中の一作。
「デリヘル」に務める3人の女性たちとその周囲の男たち(+一人の子供)のお話。

シングルマザーの結依は仕事や遊びで息子を人に預けるけど、連絡なしに引き取りに来るのが遅れがち。言葉遣いが荒いし自己中心な彼女は、イケメンの客に誘われてSMの世界をかいま見る。
夫がいる雅子は、妻に先立たれた老人に呼ばれては、ただ何もせずに帰ってくる。優しい彼女はなんとか彼を励まそうとするが・・・。
ホームレスの里枝は、IT長者風の男の家で寝起きするようになる。部屋にこもっている彼を屋上に連れ出して、外の世界を見せようとする。

ネタバレになるのだけど、この3人は全て、当然予想されるのと逆の結末を迎える。ワガママなシングルマザーは、置き去りにされた息子を気遣う子守の男性を尻目に、イケメン彼氏と息子と3人で楽しそうにご飯を食べに出かけるし、優しい人妻は犯罪の参考人として警察に同行を求められる。IT長者と心のふれあいを見せたホームレスの彼女は、当然のように新しいデリヘルを見つける。そして、彼女たちの暴露動画をネットでばらまいたデリヘルのドライバーは、性懲りもなく自分で新しいデリヘル店を始めようとしている。
真逆だ。幸せになって欲しかった人たちは抜け出せずに、ワガママな人たちは生き生きと未来を見ている。
これがこの監督の特徴なんだな。

面白かったけど、この映画もちっともエロス映画じゃない。人間の虚しさやしぶとさを描いたドラマでした。
リブートプロジェクト、どれも面白いけど、とんがった新人たちの登竜門って映画はないなぁ。そういうのも見てみたかったんだけど、また別の機会かな。

牝猫たち

牝猫たち