映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

エドガー・ライト 監督「ベイビー・ドライバー」1626本目

最高な気分。胸が高なる新しい曲やバンドに出会ったときみたい。
大学で知り合った音楽好きの先輩が作ってくれた世界最高のセットリスト、みたいな、センスと愛のあふれる映画でした。
何からほめよう?

まず、設定が秀逸なんだよね。
多分昔から音楽が大好きな監督・脚本家のエドガー・ライトが、ベイビー・ドライバーという楽曲をヒントに、ベイビーみたいなドライバーがいたら面白い、運転するときだけクレイジーで、極悪な奴らと強盗をやってたらもっと面白い、みたいな連想を繰り広げて骨格を作っていったのかな。
その寡黙な青年が強盗になった経緯や、デボラとの出会いも、うまく自然に見せてくれるので、いつのまにかこの無愛想で別にイケメンでもない軟弱なベイビー君のことをすっかり好きになってしまっています。デボラ=リリーはもちろん可愛いけど、B-A-B-Y baby〜なんてキレイな声で歌われたら、どんな男の子も恋に落ちちゃうでしょうよ、そりゃ。

配役がとても適切で、どの役も素晴らしく誠実に映画の重要部分を描けてますよね。
いい奴も悪い奴も、本当にいそうで、本当にこういうことをしそうなので、有利な証言をする人たちもウソっぽく見えません。

クレイジーなカーチェイス。すごいんだけど、最近もうすごいカーチェイスは見飽きてる。それが目を引くのは、ドライバーが童顔の小僧で、奴が「ブライトン・ロック」なんて聴きながら走るから。つまりこの映画はたぶん、1970年代にアメリカの地方都市でやっても受けなかっただろう、知恵と知識のたっぷりある2010年代の私たちだからツボにハマる意外性の妙、なわけです。

音楽の嗜好について。
テキーラ!」とか「ニートニートニート」とか「ベルボトム」とか、反射的に血圧が上がってきてしまう名曲をうまく使ってくれてるし、「ジェット・エアライナー」の冒頭のところとか、ブラーの「Modern Life Is Rubbish」に入ってるインターミッションとか、マニア心を刺激します。「ブライトン・ロック」の津軽三味線ソロを聴きながら追っ手をまくなんて、アドレナリン上がりすぎて倒れそうだし。T.REXの「デボラ」なんてマニアしか知らない、多分ティラノザウルス・レックス名義で発売された「Deboraarobed」ってタイトルの音源のほうが多い古い曲だし、出だしは「ゼブラみたい」じゃなくて「いつも田舎風のラグみたいなデボラ」と来るのが普通なので、編集したのかな。
・・・止まらなくなるのでこのくらいにします。
監督意外と若くて1970年代生まれだけど、ぜったい友達になれそうだ(多分片思いだけど・・・)。

東京にまだ上映中の映画館があってよかった。これはぜひ大スクリーンで、できれば彼女彼氏と見に行ってください!