「そこのみにて光輝く」で泣いた私としては、佐藤泰志というこの作家のことを思い出すたびに暗澹とした、だけどどこか優しい気持ちになるのですが、この映画(「そこのみ」よりだいぶ明るい)にもその暗さは流れているようです。
都会で創作活動をする夢を家族の事情で絶たれて、九州の田舎で家業の豆腐屋を継いで「豆腐屋の四季」っていうエッセイを書いた松下竜一っていう作家が昔いました。私は子供の頃にそれを読んで、才能溢れるインテリが全く創作と縁のない豆腐屋をやるという生活を想像してゾッとしたものでした。まだ子供だったので、そういう生活にこそ題材が溢れているという可能性に思い至らなかったからです。
なんの話かと言うと・・・その時のゾッとした気持ちが、佐藤泰志が原作の映画を見ていると蘇ってくるのです。
大人になれば大概の逆境にあっても自分を保つことができる。でもまだ若くて頑丈な自分が、都会で仕事に失敗して妻と子供を失って、故郷で初めての大工仕事を学ぶ。そう言う状況が、その人のケチなプライドをズタズタにするんじゃないかと、暗い気持ちになるのです。そこで暗さに共感する自分こそが、職業差別をする張本人かもしれない、そんなケチなプライドは誰のためにもならない、といくら反省してもやっぱり暗い気持ちから逃れられない。
彼の作品の出てくる若い女性たちは、いずれも安い。タダか、タダのような代償と引き換えに自分の体をいくらでも差し出す。屈託がなく、頼りなげだけど、彼女たちを見て暗澹たる感じになってる男たちよりよっぽどたくましい。それがいつも救いになってるのかもな。
オダギリジョーは、もう「上目づかいにすねる柴咲コウ」くらいに定番化した無精ひげの、ちょっとセクシーだけどだらしない男役が、ちょっとハマりすぎて飽きてきたかも・・・
蒼井優も、可愛い不思議ちゃんのキャラが多すぎないか。この映画に関していえば、キャスティングにひねりがなさすぎてちょっとつまらないです。満島真之介は、よかった。
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