映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

佐々木昭一郎 監督「ミンヨン 倍音の法則」1410本目

最初、うわっ素人!ってドン引きしてしまった。せりふが棒読みすぎて。
この監督の番組は、2年くらい前に集中再放送したのを全部見たので、その特殊な純粋さ、美しさを知っていたけど、数十年たった今、ほかの映画の隙間にこれを見るのは強烈です。
だんだん慣れてくるけど、それでも新しい人物が現れるたびに、引いては徐々に慣れる、の繰り返し。
棒読みなのに伝わって来るのは、画面のなかの彼らの、体の芯から湧き出してくるような美しさ、だからかな。
ミンヨンさんもユンヨンさんも、武藤さんも少年も、まぶしいくらいの輝きをもってる。

というか、この監督の作品って(たしかラジオ出身)音が中心なんだよね。絵よりも。
強くてスムーズで完成されたモーツァルトの音楽のなかで、美しい声の人たちが話す声を聞いてるから、だんだんそれ以外のこと(棒読みとか)がどうでもよくなってくるのかな。面白いですね。

音楽好きのなかに、リズムが重要な人がいたり、音程に厳しい人、音質にうるさい人がいる。
この監督は1音質、2音程でリズムはゆったりしてることが重要で、細かく刻むことにまったく興味がない、ように感じられる。映像もそうで、この人の映像は静止してる。一枚の静止画じゃなくて、静止した人物のまわりをぐるぐるカメラが回る。カメラに臆しない素人の澄み切った笑顔をまっすぐ撮る。お寺の周囲の木の葉が揺れて、鳥や蝉の声がかすかに聞こえてる。・・・気になるものにこだわりすぎて、ある意味、脇がスカスカだから、この映画を「映画としての基本的な品質に達してない」と思う人もいると思う。でも、個性が際立ってるものが世に出るのは大切なんだ、絶対。