映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

フランソワ・オゾン監督「彼は秘密の女ともだち」1364本目

これもずっと見たかったんだ。
最近ありがちといえばありがちなテーマだけど、女性監督らしい繊細さで、丁寧に心のひだをたぐって描いた美しい作品でした。

揺れ動くクレアを演じたアナイス・ドゥムースティエ がいい。可愛くて率直で、あまり前に出て行かないけど自分を曲げない女性像を提示してくれました。彼女には注目です。(落ち着いて見えるけどまだ28歳!)

ダビッド/ヴィルジニアを演じたロマン・デュリスの活躍も良いです。愛妻の死という動揺のなかで見つけた逃げ道だったのかもしれないけど、そこが自分の行く道だということがだんだんはっきりしてくる。男性って、自分の中の弱さを否定してなんとかやっている部分があると思うので、泣く自分を発見してそれが大事だと思えてきてしまったら、もう元には戻れないのかもしれない。

築き上げたものをぶち壊すことで、与えられた時間のなかで自分にできることを全うする。
人生のなかで何度かフェーズが変わることを理解しても、パートナーのフェーズの変化とタイミングが合わないと、「置いてけぼり」だ。置いていかれたほうの空白も、置いていってしまった方の自分を責める気持ち。
そういう苦痛を伴うとしても、どうしても決断するしかないことってある。

という意味で、意外なほど普遍的なテーマをもった映画だったんだな、と今は思います。