映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

井口奈己 監督「ニシノユキヒコの恋と冒険」1355本目

淡々としてるのに、不思議と琴線をくすぐるものがちょっぴりある。
どういう人が撮った映画なんだろう?
女性監督ということで、この映画に出てくる人の中で考えてみると、阿川佐和子みたいな人かな。
彼女をキャスティングしたのってとても面白いと思う。この人って「見てくれている人」という役割を実人生でも送ってる、と思う。何かのインタビューで、「『阿川さんさえわかっていてくれればいいんだ』ってよく言われる」と本人が言ってました。人間が好きで、いろんな人のいろんな善行や悪行を、内心面白がって観察している。それ
を見られているほうは、受け入れられている、肯定されている、と受け取る。この映画でも彼女の役割は同じ。

ニシノユキヒコは、とてつもなくチャーミングで恐ろしくモテる男だけど、少なくとも本人は「相手は誰でもいいわけじゃない(俺は選んでる)し、遊び歩いてるわけじゃない」と思っている。とはいっても自分がふらふらしていて背骨がしっかりしてないことはわかっていて、背骨になってくれるオノマチと結婚したいと割と本気で思うけど、振られたのでやっぱりふらふらしてる。ふらふらのまま死んでしまって、まあいいかと思っている。
映画を見たあとの喫茶店で、彼自身のお葬式で、阿川佐和子演じる女は微笑んで彼を見ている。なつかしんでいる。

うん、なんかこの映画のことは、すごく理解できた、と思う。
この監督に、「ここは退屈迎えにきて」を映画化してほしい、と思う。イオンモールで退屈を紛らしてる地方の女たちがきっと生き生きと動き出しそう。