映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

森一生 監督「不知火検校」1322本目

つい先日、松本幸四郎が検校役をつとめる歌舞伎を見たので、それにちなんでこの映画も見てみることにしました。
原作が書かれたのは、実はこの映画の数年前。それが当たったから1960年に大映が映画化したが、鳴かず飛ばずだった勝新太郎がこの映画で大当たり・・・とのこと。

・歌舞伎の主人公の名前は「富の市」、映画では「杉の市」。
・歌舞伎にあった、親が盲人を殺した因果で彼も盲目になったという部分ははしょられている
・通りすがりの人に、「お金を貸したら石ころを返しやがった」と言いがかりをつけて、結局お金をせしめるというエピソードは、歌舞伎では大人になってからやったことなのが、映画では子ども時代になってる。
・生首の次郎(映画では「倉吉」)に殺人を目撃された際に、しるしとしてもらった品物を、歌舞伎では大事に江戸に持って行って、犯罪グループに加入するが、映画では死者の手に握らせて罪をなすりつける。
・妻と指物師のことは、歌舞伎では知った上で妻にしたが、映画ではあとで知って恨んだ。
・最後は歌舞伎は潔いけど、映画ではきわめて往生際が悪い
・・・そのほかにも細かい違いはたくさん。

金を貸すからといって近づいておいて「てごめ」にされる若妻を演じたのが中村玉緒。お堅い雰囲気は出ていますが、プライドの高さや脇の甘さが演じきれていない、若さも感じられます。(歌舞伎でこの役をやった魁春さん最高でした)

それにしてもとにかく、勝新太郎の盲人の演技がすごい。のちの座頭市の特徴が、この時点ですでに確立されています。中村玉緒との初共演がこの映画だそうですが、これほどの犯罪者と被害者という役柄でありながら演者どうしが恋に落ちるなんて、けっこう強烈。