映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

小津安二郎監督「秋刀魚の味」1208本目

前にレンタルした時に感想書いてなかったので、二度目の感想を書きます。

ぱっと見は、「東京物語」のほうがじんとして、切ない残り香みたいなものがあったけど、この映画のほうが細かい部分も含めて完成度の高さを感じたかも。

原節子には現代的なところがない。あくまでもクラシック。岩下志麻には、電化製品やオフィスがよく似合って、明るく新しい環境になじんでいく感じがある。ちょっと傷ついて涙ぐんでも、部屋に行くともう泣き止んでいる。
なんどもリボンを指にかけたり巻いたりを、不機嫌な顔で繰り返す。
でもその間に決心をつける。小津監督の映画の登場人物の感情は、そう激しくはない。若干、女性ってものの表面から奥をあえて見ないようなところもある。

岡田茉莉子が徹底的にドライで、杉浦春子キャラの萌芽です。で、杉浦春子は今回、もっと痛い、今更嫁に行けないおばさんとして登場します。彼女の父、東野英治郎演じる「先生」がラーメン屋で加東大介に粗末にされるところが、なんともいえずかなしいんですよね。
彼が笠智衆や当時の教え子たちに現金を寄付されて、プライドで突き返すでもなくありがたく受け取るというのは、今の映画ではなさそうな流れ。(馬鹿にするな!といってぶちまけたり燃やしたりするのがトレンド)

監督が描きたかったのは何なんだろう。いろんな事情の是非を問うわけじゃないけど、「しょうがないんだよ」と丸め込むのでもない。けっこうエッジを立てて一つ一つの事件を描いておいて、しっかり考えてきっぱり受け入れる。ということを、ひけらかすでもなく、人目につかないところで決心する。そういうところが、現実らしく感じられるのかな。