映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

アルフレッド・ヒッチコック監督「恐喝(ゆすり)」1087本目

1929年作品。ヒッチコック30歳のときの作品です。
すごい、まさに「トーキー」。
オーケストラ演奏による劇伴から始まり、最初の会話まで5分。

<以下一部ネタバレ>

きわめて初期のイギリス時代の作品だけど、誤って人を殺してしまったアリスが受ける心理的圧迫のイジワルさは、全盛期を思わせます。絵の中のピエロが指差して嘲笑する、ネオンサインがナイフに見える、行き交う人の腕が被害者の腕に見える、パンを切ってくれと言われる、etc。極め付けが恐喝者のふるまい。
古き良き時代なので、警察官が事件捜査で恋人をかばう、なんてこともおおっぴらです。
大英博物館の館内で、数々の美術品に保護材も当てずに繰り広げられる大逃走劇も大変見応えがあります。
最後の最後まで、(俺は知ってるぞ)と言いたげなピエロと、一生それにつきまとわれるであろうアリスの表情。
見せ場の作り方、カメラワーク、心理的圧迫など、その後のヒッチコックの映画作りのすべてがすでにこの短い映画の中にあります。これ当時見た人、驚愕しただろうなぁ。

昔の映画なので見づらいところはあるけど、これは面白かった。