映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

ジョシュア・オッペンハイマー監督「アクト・オブ・キリング」1047本目

インドネシアで、それほど遠くない昔に行われた共産党員(と疑われた人たち)の大規模虐殺の、加害当事者の今を映画にしたもの。

「ドキュメンタリー」っていうより、現実をもとにしたフィクション映画のメイキングって感じです。
当事者たちが派手なメイクや衣装で繰り広げた演技の、その「フィクション映画」そのものが見てみたかった。
映画+メイキングっていう形にしたほうが、狂気が際立ったんじゃないかな。

殺される側の演技をする中で、他人の苦痛を想像する能力を思い出してしまったアンワル氏は、その前から悪夢にさいなまれてた。想像力が人を弱くする。一方で、他の男たち(北方謙三ふうの頑強な奴とか)にはそういう苦痛は訪れないみたいだ。そして最後にアンワル氏も、滝の前で踊る女性たちの中で、宗教的赦しを感じて屈託のない表情に変わる。
罪ってなんなんだろう?赦しってなんなんだろう?
政治犯は政権が勝ってる間は咎められない、というのは世界中のどこの国にも共通で、それが外国との戦争でも国内の争いでも同じことだ。この虐殺の規模が100万人だから悪くて、1万人ならいいというものじゃない。

本物の殺し合いの断片を垣間見ることができたという意味で、貴重な追体験をさせてもらいました。