映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

倉田準二 監督「十兵衛暗殺剣」1032本目

1964年作品。
印象的な点の多い、興味深い映画でした。
何が面白いって、せいぜい50年前の映画なのに、私が知ってる俳優が少ない。見たことのない美男たちが戦いまくる、なんだか遠い不思議な国の映画のような感じです。だいたい、”湖賊”って!?本当にいたらしいですね、琵琶湖に。もちろん悪い盗賊なんだけど、絶滅してしまった幻の動物のように、なんだかロマンを掻き立てられます。
もちろん白黒。しかし画面はくっきりクリアでとても美しいです。(さすがハイビジョン)
目が痛くなるくらいコントラスト強めで、音声も、昔の映画にありがちな聞き取りづらいところがなくクリアです。登場人物は誰も彼も眼力がすごい。
冒頭からいきなり、ふんどし一枚の屈強な男、幕屋大休(大友柳太朗 )が湖を泳いで島の処刑場へ向かう場面。血みどろの場面はこの映画にはあまりありませんが、”女こども”を寄せ付けないハードボイルドな世界です。「成年向け劇画」っぽい。デートで行っちゃ絶対ダメな映画。

柳生十兵衛はその後の場面で眼帯をまとって馬に乗って登場します。演じる近衛十四郎 は、松方弘樹目黒祐樹のお父さんなんですね。確かに似てる。大柄で強い顔立ちだけど、たたずまいに、なんとも言えないしなやかさがあって美しい。浮世絵のモデルそのもの、って感じ。家光を演じる林真一郎も、なんとなくEXILEのTAKAHIROふうの、目の綺麗な美青年です。
幕屋と組む美女、宗方奈美が演じる美鶴は涼しげで芯の強そうな女性。濃い系の男にはこういうクールな美女がよく合いますね…。最後に覚悟を決めて十兵衛に向かったときに「時の流れに逆ろうてはならん。真面目な生業につけ」と言われる湖賊の女が彼女です。

映画全体で、幕屋と十兵衛の登場場面の比は8:2くらいじゃないかな。タイトルは十兵衛だけど、幕屋の映画です。時代劇もいろんなことをやり尽くして、こういう異端的な作品が出てきたのかな…。
いやー、面白かったです。