映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

西川美和 監督「夢売るふたり」913本目

西川監督の真骨頂だなぁ。
この映画は、人が死んだりするような黒い部分があまりなくて、善にも悪にも簡単に転べるような人間の揺れが描かれていると感じたので、単純に楽しめました。それにしてもこの監督ほんとに、キレイなのになんて腹黒い(笑)。アガサ・クリスティとか向田邦子とかの、女性らしい残酷な切り込み方が鋭いです。

今ふうに言うと、ちょっと”残念”だったり”こじらせ”てたりする女性たちに、夢を売るおしごと。どんな男性にだって自分の都合があるから、女性にカンペキに優しくすることは普通できないけど、彼はそれがおしごとだからできる。阿部サダヲだから出せるやわらかさってのがあって、絶妙なキャスティングだなと思います。こういうのを見てると、女が求めてるのは本当はイケメンとかお金とかじゃないんだよな〜って気付かされます。

松たか子って本当にうまいですね。透明感のある彼女が自然に演じると、働きづめでやってきた妻の胸の奥底の怒りも、楽になって一人で生理用品を取り替えるときの空っぽな心も、がっちりと実感のある現実として伝わります。

テーマがテーマなので、イヤ〜な気持ちになるような映画かなーと思ってなかなか見なかったけど、とてもいい映画でした。最後にこの二人は、自分たちの夢をもう止めたようだけど、分かれ分かれになったんだろうか。それとも、二人でコツコツ働きつづけてるんだろうか。騙された女性たちは、探偵を雇ったり、憂さ晴らしをしたり、それぞれの道を見つけてやっていく。

誤解をおそれずに言うと、こういう詐欺は体温があって後味がマシなんじゃないだろうか。電話でお年寄りから一瞬のうちにお金を奪うような詐欺の虚しさよりは、恨むにしろ赦すにしろ対象(ダメ男と狡猾な妻)がいるし、そのあと間違いなく賢いいい女になりそうな気がします。