映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

ロマン・ポランスキー監督「おとなのけんか」728本目

アメリノートンという人の「殺人者の健康法」という本を思い出しました。
ベルギー人女性が、日本に来て商社で1年間勤務したときのストレスを、帰国後にたっぷりと吐き出した小説。最初は友好的に振る舞っていた人たちが、話しているうちにどんどん激高していくスリリングな構成が、この映画に似ています。両方とも傑作だと思う。

こっちは、全然違うタイプの夫婦2組。どっちかの息子がどっちかの息子を殴ってケガをさせたところから映画は始まります。こっちが面白いのは、夫婦どうしが敵対していたのに、ふとしたところから女性二人が共感し合って男性二人がののしりあったり、4人の中の組み分けがどんどん変わって行くところ。招かれざる夫婦は、なぜだか招かざる夫婦の家を出て行かず、エレベーターに乗る直前に戻ってくるわ、出された酒に悪酔いして胃の中のものを噴出するわ、ありえない成り行きの中で事態はどんどんおかしなことになっていきます。

そんなおかしな”おとなのけんか”をじーっと覗き見ている自分(たち)もすごく意地悪なんじゃないか、という気持ちになってきます。

結末どうなるのかな、原題の日本語が「虐殺」らしいし…とちょっとビクビクしましたが、ポランスキーの映画は最後に絶望させることはない、と思います。(タイトルや作りから、ミヒャエル・ハネケ作品だっけ?と一瞬思ったのですが、もし彼の作品でこのタイトルだったら、まず絶望は確実)

(子ども達はとっくに仲直りしてるのにね。)という意味で、この邦題は秀逸、というか、これ以外考えられない!