映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

ジョエル・コーエン 監督「ファーゴ」695本目

面白かった。
「面白い」にもいろんな意味があると思うけど、この映画の面白さは、アメリカの片田舎のフツーの人たちのリアリティの中から見えてくる、人間の本質…可笑しさ、怖さ、いいかげんさ。そんな中でも正しいことを貫き通そうとする人のもたらす、かすかな光。誰かを責めることもなく、正しい人をヒーローにまつりあげることもない。ダラっとしてるとどんどん崩れて行く世界を、少し整える人たち、という印象です。

映画の最初に「この映画は実話で、亡くなった方々へ敬意を表するため事実に即して描いています」という大ボラが出てくるからか、おそらく公開当時は実話だと思っている人が多かったのでは?当時は「サスペンス」というジャンルにくくられてたけど、最近は「コメディ」となっていることも多い。公開当時は、(意図しない殺人をおかしてしまって、どんどん道を外れて行くなんて、恐ろしい映画だ)と思って見なかったのですが、最近のその変貌のおかげで見てみようという気になりました。今はwikiにもまったくのフィクションだと書かれています。

それにしても、出演者のフツー感が半端ない。
地味すぎるというわけでもなく、それぞれ印象的なのですが、アメリカの片田舎にゴロゴロしていそうな、人当たりはいいけど全然ダメな中古車ディーラーや、人はいいけど男を見る目のない妻、可愛く見えなくもないけどそうでもないギャル達や、ちょっとワルそうで本当に前科のある人たち、普通だけど切れる女性刑事といった人物たちが、何とも言えず良いです。普通の人々にこそ神は宿るんだよ、きっと。だからこそ普遍的に、誰が見ても何か心の奥がムズムズしてくる映画になったんだと思います。

なるほどこれがコーエン兄弟か。力のある人たちです。