映画と人とわたし

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

新藤兼人監督「悪党」679本目

新藤兼人作品にハズレなし。
しかしこの作品は、その中では比較的とっつきにくい印象です。
なぜだろう。

私は彼の静かでやさしい作品のほうが好き(午後の遺言状とか)で、これは”むき出しの生死・情欲”を描いたものだからかな。でも「鬼婆」はすごい作品だと思ったんだけどな。

むき出しの割に回りくどいからだろうか。
小沢栄太郎演じる中年の偉い侍が、乙羽信子演じる”イヤらしい女中”にそそのかされて、ある絶世の美女と契りたいと望む。この男女の実際の出会いは、なんと「入浴中の彼女を一度覗いたことがあるだけ」である。夜目、遠目、傘のうちというけど、湯気で視界を遮られつつ、肌を上気させた入浴中の姿が美しく見えない女性がいたら珍しいと思う。

夫のあるその「美女」(岸田今日子)を我がものにするため、侍は兵まで出すことになり、いろんなことが裏目裏目に出て、結局美女は命を失ってしまう。

印象に残るのは、中年の侍のイヤラシさもだけど、彼のいやしい欲望をかきたてる女中のイヤラシさのほうが強烈。彼女は自分の身を危険にさらすことなく、ただ人々が心を惑わされる様子を見て楽しむだけの女で、タイトルの「悪党」というのは彼女のことなんだろうか、と思うに至ります。

誰一人として思いを遂げず、全員が不幸になったラストで、侍のあさましさを高笑いする女中の姿ばかりが目に焼き付いて離れない、なんかイヤ〜な後味のある映画でした。