映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

アルフレッド・ヒッチコック監督「三十九夜」550本目

スリルたっぷりなサスペンス映画の傑作、だけど、この時代のヒッチコックは「バルカン超特急」がやっぱり最高だなぁ。
普通の男が突然かつ偶然に、大きな陰謀に巻き込まれる。逃げるチャンスがないわけではないのに、どんどん深みにはまっていく。いい女が何人も関わっている。何度も九死に一生を得る。信用できそうな人を見つけて頼ろうとしたら、そいつが一番の悪人だった。

美しく張られた伏線、完璧なカメラワーク(ちょっとがんばりすぎなくらい)、だんだん見ているこっちも疑い深くなってしまう、そんな構成。

この映画がそれでも自分としてはベストと感じないのは、主人公自身が怪しすぎるからかな。彼自身が実はとんでもない詐欺師!?って伏線かと思ったくらい。その怪しさが生かされないまま映画は終わります。

この映画で使われているトリックは、デジタルコピーがいくらでも作れる2013年にはもう意義を失ってるけど、そこはあまり気になりません。オープニングとエンディングをつなぐ流れがとても美しいです。
ストーリーはこのあと、ヒッチコック自身を含めて数限りなくリサイクルされているので、さかのぼって見る私たちには目新しさは少ないけど、ストーリーを全部知った上ですばらしい構成やドラマチックなカメラワークを味わうだけでも価値があります。

それにしても、「39夜」なんてどこにも出てこない…。ステップスより夜のほうがロマンチックだけど、誤訳…?