映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

スティーブン・スピルバーグ監督「戦火の馬」480本目

馬かわいい。
おばちゃん=エミリー・ワトソン、純真で図太い、いい存在感です。
奇跡の海」に出てましたね。あの演技もよかった。
あ、またベネディクト・カンバーバッチが出てる。賢くてちょっとイヤな奴を演じると、とても良いです。

映画全体としては、最初の軍事演習のシーンが終わったところで緊張が解けてしまった。
戦場での馬の様子を、あまり見たくない。なんか…そういう演技をさせられてると思って見ると楽しくないし、そうでなくてもこの映画の馬たちは揃いすぎていてちょっと違和感がある。それだけ画面の完成度とか全体構成とかはよく練られています。うまく練られすぎて、実は全部CGなんじゃないかというような虚構感が強い。

たくさん殺されていく人や馬のなかで、この馬だけが守ってもらえる価値があるとは思いたくない。完全に自力で誰にも助けられずに生き延びたんじゃなくて、いろんな人が無理して高いお金を出したり、生命の危険を賭してわざわざ助けに出たりしたおかげで助かったのでした。みんなが助かるんでなければちっとも嬉しくない、というのが正直な感想です。私は「すぐれた人(馬)、選ばれた人だけが栄える」というフィロソフィーが嫌いなのです。

なにかの象徴として描かれてるんだろうけど、それによって「ほかはみんな死んだけどちょっと救われた」ような勘違いをしてしまって、なんか間違ったヒューマニズムが醸成されそうで。だからこれは、そこまで複雑な現実をぜんぶ理解するのはまだ早い、子どもたちのための映画でいいのだと思います。