映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

大森立嗣監督「さよなら渓谷」449本目

ああくやしい、ストーリーの途中まで知ってから見てしまったことが、心から悔やまれます。
やっぱり映画は何も知らずに見るのがいい。
だから劇場の予告編って止めてほしいです。予告編で「被害者と加害者」って言っちゃうのって、ひどいネタバレじゃないですか??この映画は、真木ようこ演じる女と大西信満演じる男の、過去の関係性をじりじりとあばきだす過程の映画なんだから。

知った上で見ても、この二人の危うい演技は素晴らしかったです。胸が痛くなる。男が「死ねと言うなら死ねる」って場面で号泣です。椎名林檎の曲を、真木ようこ演じる「かなこ」が歌うのもいい。

でも、ラストで大森南朋演じる記者が男に「“かなこ”に会わなかった人生と、会った人生と、どっちを選びますか?」って尋ねるのは、ぴんとこないです。これは個人的には、OK出したくないです。それ以外の場面はすべていい。男と女が半年の間になじんでいる様子や、子殺しの母親の鬼めいた様子、女の緊張と恐怖、記者の弛緩した毎日と気づき。

原作の吉田修一って大好き。この映画にも彼らしい深く慈愛を感じさせる人間洞察が生きています。

ところでこの映画が「天使のはらわた 赤い教室」と同じテーマを描いていることを指摘しておきたいです。どっちの映画でも、男たちの気軽な欲望の犠牲になった女性が、そのために受けた傷ではなく他の男たちからさらに傷つけられます。私は女性の権利がどうとか言う気はないけど、こんなのが現実だとしたら、日本はまだまだ未開の国だなーと思う。被害者は名前を変えて遠くの町に逃げるか・・・こんなことで差別されない国に逃げるか・・・とにかく生き延びて、幸せになってほしいよ、とフィクションだけど熱くなってしまいました。