映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

クロード・ルルーシュ監督「男と女」423本目

甘い生活」で唯一ステキだと思ったアヌーク・エーメと、「愛アムール」で感動したジャンルイ・トランティニャンが出ているカンヌ受賞の名作で、あの“ダバダバ”の映画だということで、はやる気持ちを抑えながら食い入るように見ました。

主役の二人が素敵すぎる。カメラが絶妙すぎる。アヌーク・エーメは「甘い生活」のときより成長して、成熟した分別のある大人です。ジャンルイは、若い頃から穏やかに引きつけるものがあって、女性が安心感を感じるような男です。
てかアヌークの元夫であるピエール・バルーのボサノバがまたシビレる。愛し合う二人、彼のギターの音に気持ちがはなやいで、なんでもない風景が輝く。こういう瞬間のために人は生まれてくるんだろうな。映画を見ている私たちも、彼に、彼女に気持ちを映して、いっとき至福にひたります。そんな至福が永遠には続かないことも(映画がいつか終わること、人はいつか死ぬこと、愛の幻想はいつか壊れること)、私たちはわかってる。

車のエンジン音以外の音声レベルがすごく低いことや、二人の心象風景を反映してか白黒の画面が多いことや、いろんな工夫のある画面作り。命を懸けて麦そうするル・マン。あー、こういうのを見て、私たちの父や母たちはフランスに心底憧れるようになったのかな。

後半になって、いよいよ恋愛が始まりそうになったあたりから、女は構える。男は計算を始める。
でも会うと計算なんてどこかへ飛んでいってしまって、ただ愛する人を抱きしめる。光る海岸を犬が走る。子どもたちが走る。

心の中のつぶやき。女性を描くことが多いと思うけど、この映画では男性のつぶやきが描かれます。女性も回想するけど、彼女の思いは言葉にはならない…のかな。ずっと画面が白黒であることだけが、有頂天になれない大人の恋愛の温度を物語ってるのかしら。

監督は大変なロマンチストだなぁ。かつ耽美的。こういう映画があってもいい、と思います。個人的には大絶賛です。
(DVDは現在絶版なので、リンクなし。)