映画と人とわたし

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

蜷川実花監督「ヘルタースケルター」372本目

派手な宣伝や魅力的なビジュアルで、見てみようと思う人は多かっただろうな。
見てみたら、おそろしく凝った独特の感覚で全体の美術が構成されていて、お金も手間もかかった、監督のワガママがたっぷり具体化された映画だと思いました。

くだんの沢尻エリカは、…この人は実際には骨格と目鼻立ちの位置が乖離してないから、多分ほぼ素のまま美しい人だと思うし、「別にー」とか言っちゃったり、すぐ隠遁しちゃうくらい世の中に興味のない”不思議ちゃん”なので、欲のかたまりの「りりこ」とは程遠いというか真逆といってもいいんじゃないか?だけど激しいバッシングを受けている、というパブリックイメージで行ったこのキャスティングはとても残酷で、それを見た人たちが沢尻エリカの悪口を言うのも残酷。監督はとても美しくてとても残酷なものを作り上げて、世の中にまき散らそうと思った、のかな。

みんなが求めてるものは、特徴のない完全な美しさじゃなくて、個性的で親しみやすい可愛さだから、完全なものには反発するんだよね。だから沢尻エリカはみんなのアイドルにはならないし、この映画みたいな世界は……あれだな、ドラアグクイーン的。

この人自身は、私には「憑衣型女優」のように思えて、難しい役ほど挑戦してみたい女優魂があるんじゃないかと思います。この映画でもかなりがんばってますが、まだ幼さが抜けきれない。この面白い女優さんに、もっとたくさんチャンスがあればいいのに、と思います。むしろもっと野心を持って、目標を決めて、それを達成するための世渡り術を身につけてほしい…。

ストーリーより各場面の画面の美しさがキモの映画で、監督が役者さん中心でなく絵全体を見ているからか、どこか常に人物が背景に負けているところがあって、そのせいで検事=大森南朋のキザな言葉もBGMのようで響きません。

りりこが見る幻覚が、美しい蝶とか、狂った童話の世界とかで、ゾクゾクするような蜷川ワールドです。
この映画で困ったのは、音声レベル。激しく変わりすぎて、叫びのところでボリュームを絞るとすぐに囁きの場面になって聞こえなくなってレベルを上げて…の繰り返し。ヘルタースケルター。音楽はオールジャンルからのセレクションで、効果的だったと思います。

悪の美術館とかアトラクションみたいなものに入ったのだと思えば、充分楽しめたたっぷりな映画でした。