映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

セルゲイ・M・エイゼンシュテイン監督「戦艦ポチョムキン」360本目

思想家ではなくて画家のほうのフランシス・ベーコン展が、いま東京で行われていて、NHKの「日曜美術館」で彼とこの展覧会のことを取り上げたときに、この映画の「オデッサ階段の虐殺」シーンで印象的な「叫ぶ乳母」をモチーフにした絵を描いているという話があって、ど〜しても原作が見てみたくなって、DVDを買いました。

実は…この、右目をやられて叫んでる鼻眼鏡の女性は、乳母ではないですね。乳母車と一緒に映っているカットはありません。もっと市民のリーダー的な、「言って説得しましょう!」と声をあげる人です。見たところ女教師、かな?という感じ。なぜ「乳母」という誤解が生じたかというと、この階段落ちの場面で「乳母車が階段を落ちて行く図」と「右目をやられて叫ぶ鼻眼鏡の女性」の2つが強烈だからでしょうか。演出意図はきっと「蜂起しようとする女性も最後にやられてしまった」ではないかと思いました。鼻眼鏡の女性は、この場面の最初のほうから何度か映るのですが、有名な右目をやられたカットは、ほんの0.5秒くらいで、画面停止しないと見逃してしまうほど短いです。

私が買ったのは68分間のアメリカ上映版ですが、これを見る限り、自分も撃たれて乳母車から手を離してしまった人(=乳母というより母親のように見える)のは、黒衣で眼鏡をかけていない若い女性です。

その他、驚いたこと
ポチョムキン号の旗が真っ赤に手彩色されているのが、強烈。白黒映画じゃなかった!
・エキストラの人数が強烈に多い(むかしの映画みんなそうだけど)
ポチョムキン号が寄港した、大階段(階段の虐殺は史実にはないらしい)のあるオデッサという町は、ウクライナ南部の町ということなので、ソビエトではあったけど今はロシアではなかった。

それにしても、誰も彼も普通に「叫ぶ乳母」って言ってるけど、誰もこの映画見てないんだろうか。

映画自体は、逃げ惑ったり慌てたり蜂起したりする人々の演技が若干いつも過剰なので、1カットずつを見るとかなり引きつけるけど、続けて68分見ると集中力が続きません。でも、この階段落ちは間違いなく歴史に残りました。まったく興味がない人でも、一度は「大階段」の場面だけでも見ておくべき!一度見たら絶対忘れません。