映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

ダニー・ボイル監督「ストランペット」289本目

2001年作品。

しびれた。ダニー・ボイルもロンドンもほんとに好き。しかしこれは私の長年のロンドン好きによるものなので、誰にでもお勧めするわけではありません。

この作品も、BBCで放映するために作られたもの。シャロウ・グレイブにしろこれにしろ、ダニー・ボイル作品はテレビ映画のほうが尖ってませんか?日本のテレビにも、若い映画監督に好きにやらせる枠があればいいのにな〜。

ドキュメンタリーのように荒削りなドラマです。ロンドン近郊の貧しい労働者の男が、たまたま拾った少女と即興で作った歌がネットで大受けして、彼らをデビューさせようとロンドンに連れて行ったのはいいけど、元が乱暴者なのでレコード会社の人たちと合わせることができず、結局少女だけがデビュー。彼女1人で歌う歌がテレビで流れ、近所の店のカラオケで流れ・・・。

ストレイマンとノックオフとストランペット、ってネーミングもいい。Strumpetは娼婦って意味らしいけど、彼らは「ストルゥンペット」って発音します。その発音も、ロンドンのすすけた道路も灰色の空も、ぜんぶ好き。

主役のクリストファー・エクルトン、見たことがあると思ったら「28日後」の主役。実は「シャロウ・グレイブ」では生真面目な会計士の役をやってたんですね!無精ひげのあるなしで、これほど役どころが変わるとは。その演じ分けができるのはすごい。

音楽がまた、好きなんですよ。主役の彼らが歌う歌も素敵だけど、合間に流れるやさしいメロディもイギリスの風景に溶け込んでいます。

はぐれ者の彼らが最後に「トップ・オブ・ザ・ポップス」的な音楽番組で大暴れするのが痛快で涙が出ました。ダニー・ボイルは本当に、世の中をはみだしてしまった人たちの気持ちがよくわかっています。偉い人も偉くない人も、みんな自由に自分らしくありたいんだよね。いろんなものを大きな器であたたかく受け止めてくれるから、彼は国民的映画監督なんだな。と思います。誰にでも勧められる映画じゃないけど、この映画が好きな人は好きだ!多分。