映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

ジェームズ・アイヴォリー監督「日の名残り」96

1993年作品。

原作はカズオ・イシグロ、長崎で生まれて5歳でイギリスに渡り、この作品でイギリス最高の文学賞ブッカー賞」を受賞した。現在57歳の現役作家で、この作品は1930年代〜50年代の大戦前後を描いたものだけど、まるで19世紀の作品のようです。イギリスには今でもこういう、貴族、執事、コスプレのように見た目や体裁、“様式美”を重んじる文化がしっかり残っている・・・のかもしれません。

自分の感情を表面に出せない、出し方を知らないまま生きてきた執事と、有能なメイド頭との不器用で実を結べない恋心。重要な仕事があると、プライベートで何があったとしても仕事を優先してしまう。どうでもいい些細な仕事でも実はそっちを優先してしまう。そういう生き方しかできないんです、不器用ですから。・・・ってこれ高倉健さんですね。こないだ見た「駅-Station-」ですね。

カズオ・イシグロ自身は、自分には日本文学の影響はないと言ってるらしいですが、(5歳で渡英すればそうでしょうね)この感覚はイギリスと日本に共通する、忍耐の美学みたいなものでしょう。彼はそれをイギリスで経験したんだろうし、それをばかばかしいと感じたのかもしれません。

ナチス側についてしまった貴族が没落し、アメリカ人が屋敷を買うあたり、この作品でイシグロは、そういう美学を表向きネガティブに描いているのかもしれません。とはいえ、実際には不器用な恋愛しかできない人はたくさんいるし、誰だって胸にいろいろな思いを抱えて生きているもんです。執事スティーブンスが一生胸に持ち続けるであろう、メイド頭ミス・ケントンへの思いは、彼にとっては大切な美しいものでしょう。

執事を演じるアンソニー・ホプキンズ、メイド頭を演じるエマ・トンプソンが素晴らしいです。アメリカ人実業家役のクリストファー・リーブの元気な姿を見るのもいい。ヒュー・グラントは、相変わらずな感じ。

カズオ・イシグロは、80歳くらいになったらアリストクラットの美学についてポジティブ寄りなコメントもするんじゃないのか?と思いつつ、今日はこのへんで。