映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

石井裕也監督「川の底からこんにちは」 89

2010年作品。
満島ひかりって女優に興味をもったので、主演作をいくつか見てみることにしました。

東京で働くハンパなOL佐和子が、父が病気になって実家のしじみ工場を継ぐことになって帰ってくる。つきあっていたバツイチ子持ちの上司も付いてくる。といっても、佐和子には昔テニス部の上司と駆け落ちして家を出た黒歴史があり、工場で働くオバサンたちとなじめない…

中の下。どうせたいした人生じゃないし。しょうがないから。といった言葉を佐和子はしょっちゅう口にします。最初はどよーんとしてしまう感じだけど、だんだん開き直って強くなります。

結婚しようと思っていた男が逃げて、彼の子どもだけが工場に残る。「どうせあんたもたいした子どもじゃないんだから、がんばるしかないんだよ!」っていうのが気持ちいい。
あまりよく知らない俳優さんたちのフツーでリアルな演技もとても良いです。スターを使うと、その俳優さんの映画になっちゃう。この映画では、それぞれの演技がとてもはまっています。

なんかアングラ感ただよう映画。面白かった。フツーのうだつのあがらない人たち(私のような)が、つまんない仕事が終わって安い居酒屋でキンキンに冷えた発泡酒を飲んでうまい!って言う、そんな気分の映画です。もっと高くてもっとおいしいものも世の中にはあるし、もっとキレイなお姉ちゃんがいる店もあるけど、俺はここがいちばんいいよ。ってな。

佐和子が連れて帰った元上司が佐和子の友達と出奔しちゃったり、佐和子の父である工場長が工員のおばさんたちのほとんどとデキてたり、なんかちょっと崩れた世界なんだけど、自分も身に覚えがある、だから人のことが許せる。いまの日本が忘れそうになってる、そういう世界。…みんなもっとガード下の立ち飲みでホッピー飲もうよ。いいじゃんもうしょうがないよ、とか言いながら。以上。