映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

アルフレッド・ヒッチコック監督「巌窟の野獣」2319本目

原題は単に「Jamaica Inn」だけど、映画の中ではこの名前自体が怪しいものとされています。ぱっと見あっさりしてるけどねぇ。

トーキーになったばかりの時代で、画面が荒れているおかげで、荒くれ男たちが本当に荒く見えます。黒澤明の昔の映画みたいだな。

最初に訪ねた屋敷の「ペンガロン卿」はチャールズ・ロートンですね!ディズニーアニメの悪者はみんな彼を模倣してるんじゃないかというくらい、愛嬌のある悪役。「戦艦バウンティ号の叛乱」ではこの上なく悪辣な船長だったっけ・・・

ヒロインのモーリーン・オハラはこの荒い画面でも陶器のような肌がわかるとても美しい女優ですね。

「ジャマイカ・イン」の造形が有機的で、カリガリ博士を思い出すなーと思ったら、プロデューサーが同じエーリッヒ・ポマーですって。ヒッチコックと彼が組んだのはこの一作だけみたいです。

この作品はヒッチコックのイメージとは違うけど、よくできた海賊ドラマだったんじゃないでしょうか?大波、難破船、大勢の海賊・・・といった思い切ったロケも行っていて、見ごたえもありました。

巌窟の野獣 [DVD]

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アルフレッド・ヒッチコック監督「下宿人」2318本目

1927年、ヒッチコック無声映画。おそらく全尺が残っていて普通に見られる最古の作品と思われます。

これは冒頭から殺人事件が連続して起こっていて、サスペンスの香りたっぷりです。ハートの抜型でクッキー記事を抜いて意中の女性にアピールするなんて、可愛い、というか、100年近く前からハートというのは「好き」を表す記号だったんだなぁ。

しかし犯人は「復讐鬼」と呼ばれてるんだけど、英語では「Avenger」だ。(あいつら正義の味方じゃなかったのか!)復讐はrevengeだと思ってましたよ。そのていどの英語力。。

この映画は、こんなに昔なのにヒッチコックらしさを感じられました。といっても、この頃は「犯人らしき人が誰も見てないところで悪い人っぽく笑う」みたいな、典型的な場面も多いです。

犯人らしき人がいた、と知った一般大衆がすごい勢いでそいつを追いかけて、袋叩きにしようとする場面が怖いです。ひとつ間違えれば「わらの犬」です。この辺とか、いかにも怪しそうな人を犯人と決めつけて追う警察とか、「いちばん怖いのは人間だ」というヒッチコックの深い洞察が現れてるなーと思うのです。なかなか面白かったです。(最後にもう一ひねり来るか?とつい思ってしまうのが現代人・・・)

下宿人 [DVD]

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アルフレッド・ヒッチコック監督「ふしだらな女」2317本目

1928年の作品。初めてヒッチコック無声映画を見ます。

しかしこの映画はミステリーではなかった、残念ながら。この映画では画家のモデルになった人妻が、画家に好かれて夫にその仲を怪しまれ、画家と夫が傷害事件を起こしてしまい、離婚訴訟を起こされる。結審後またほかの男に言い寄られて再婚したが、過去の新聞記事を新しい家族に発見されてまた新聞記者がやってくる・・・。「私は申し開きはしないわ。I've got nothing to hide!…と終わります。わずか60分間。この映画では誰も悪くない。まるでヒッチコックらしからない映画です。この短さ、20~30分くらい本当は彼女の悪事の部分があってカットされたとか?と思ってしまいました。

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ウォン・カーウァイ監督「マイ・ブルーベリー・ナイツ」2316本目

Amazon プライムの「ウォッチリスト」になんとなく入れておいたのにいつか提供が終わってたので、わざわざDVDをレンタルしてみました。

どこかでミステリーと紹介されてたのに、ゆったりとしたメルヘン的な感じで始まるのでどっちなんだと思ってたら、ウォン・カーウァイ監督じゃないですか。ほぼ「恋する惑星」をアメリカに持ってった感じですね。それなら緊張しないで見られるわ。

ノラ・ジョーンズって可愛い顔ベストテンでかなり上位に入ると思うんだけど、順位は保ちつつこの映画では「まだあか抜けない、だまされやすいウェイトレス」姿もまた可愛いらしいですね。レイチェル・ワイズだのナタリー・ポートマンだのジュード・ロウといった美形がこんなに出てきて、なんだか美しくてロマンチックな映画です。ただ、舞台が香港でフェイ・ウォンが出てくるのでなければ、あの不思議なマジックはあまり感じられないな。それでも可愛いメルヘンでした。

 

ハーバート・ロス監督「ファニー・レディ」2315本目

1975年、「ファニー・ガール」から7年後。ニッキーをはじめとして、以前と同じキャストがたくさん出ています。もしかして黒人メイドも同じ人かな?と思ったら「ファニー・ガール」のエマはRoyce Wallace、「ファニー・レディ」のアデルはMitti Lawrence、別人でした。(KINENOTEのキャスト欄は7人しか載っていなくて、IMDBに当たった)

この映画は「ファニーガール」の続編なのかもしれないけど、「華麗なるギャツビー」とかにもっと近い。ショービズで成功した大人がうまく夫婦関係を作れずに孤独に生きていく話です。

バーブラはすでに大御所の雰囲気を漂わせていて、貫禄たっぷり。よく作ってある映画だけど、あまり強い印象は残しませんでした。

それにしても、やっぱりバーブラの衣装の胸の開きが広いな・・・。

ファニー・レディ (字幕版)

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メル・ギブソン監督「ワイルドハート」2314本目

1995年、24年も前か。ダンス・ウィズ・ウルヴズとかロード・オブ・ザ・リングを思わせる、歴史映画だけどファンタジックで美しい映像です。スコットランドなまりというかスコットランド語?が素敵。

でも、監督自身がヒーローを大真面目に演じるヒーロー映画って自己顕示欲なんじゃないの、というイジワルな気持ちがあふれてくる・・・ドラマチックすぎて。スコットランド=いじめられる方、誠実、たくましく美しい、イングランド=いじめる方、暴虐、ずるくて弱い、という図式があまりにも単純すぎて、この映画を気持ちよく見ることが大変ないじめにつながるような気がして楽しめません。。。

でも美しい映画だった。ロケはスコットランドではなくアイルランドだそうです。

ブレイブハート (字幕版)

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ウィリアム・ワイラー監督「ファニーガール」2313本目

今日はバーブラ・ストライザント特集。音楽だけで映像が出てこない箇所があるので戸惑いますが、昔の長い映画なので冒頭と幕間の音楽だけの部分があったのかな。VODだからその部分に映像がついてないとか?

ローマの休日」と同じ監督だなんて、時代感覚がおかしくなってきますが、この映画は1968年、ワイラー監督の作品リストの最後のほうで、彼女がまだ20代のときの映画デビュー作と考えれば、理解できる気がしました。

バーブラ・ストライザントが若い。頭の回転が速くて愛嬌のあるお嬢ちゃんです。これって実話なんですね。お相手はオマー・シャリフフレディ・マーキュリーがロックバンドのボーカルを務めるようなもので、エジプト人がロマンティック・コメディの主役を務めるのは違和感なかったのかな。(いやフレディは若干違和感あっただろ)ちょっとエキゾチックな大金持ち。ここが気になるのは、ファニーに“黒人のメイド”がいるから。エジプトは植民地化したことがないからかな。…キャスティングについて私が今頃とやかく言うところじゃないですね。すみません。

ファニーと職業「ギャンブラー」のニッキー。ギャンブルが当たるときもあれば外れるときもあるのは当たり前で、勝ち続けるファニーと負けが込んできたニッキーはうまくいかなくなってきます。…バーブラの生来のパワーだけど、勝ち続けることは多分敵も作るし一番身近な人を傷つける。

それにしても、この映画も「スター誕生」もバーブラ・ストライザントの衣装はどうしてこう胸の開きが広いんだ。

ファニー・ガール (字幕版)

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