映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

アレクセイ・ゲルマン 監督「神々のたそがれ」2271本目

泥まみれの悪いテーマパークみたいだ。ギリギリ、大丈夫なところに線を引いてその中で映像を作っているので、突然の死や残酷な映像をびくびくと恐れながら見る必要はない。柵の中からジャングルを覗いてる観客みたいな気持ちで見ればいい。

こういう映画ってほんと、自分の目で見てみないとわからない。解説には小難しいことしか書いてないし、感想は「汚すぎて最後まで見られなかった」というような人が多いけど、実際に見てみると、ホドロフスキーの映画や「ピンク・フラミンゴ」みたいな本当のグロじゃなかった。だいいちテンポがいい。これはタル・ベーラみたいな本当の極北ではなくて、泥まみれの人々が生き生きと生きて、カメラににっこりと笑いかける。描かれている世界は、生命力や欲に満ちた人たちが、アフリカのサバンナのハイエナたちみたいに生きて死ぬ世界。泥まみれのエミール・クストリッツァテリー・ギリアムのような豊穣の映画なのだ。沈黙の場面などほとんどなく、次から次へと悪い奴や汚い奴が現れて、脂ぎった顔を輝かせて欲望をむき出しにする。

2時間経過した、映画の三分の二あたりで「神」であるドン・ルマータが「皆殺しにしろ」と周囲のものたちにささやく。神ってものはこういう風に気まぐれを起こすのか。それまでにも死は至るところにあったけど、そこから死は加速するように見える。最後は神々以外誰もいない星になって終わるのかな・・・。

見られないほとの映画ではなかったけど、露悪的で、深遠なようでいて見世物小屋みたいな映画だった。こういうのを作る人は、泥んこまみれが本質的に好きなんじゃないかね~。

 

マイク・リー 監督「家族の庭」2270本目

痛いお話。日本でも40代、50代の女性の数名に一人がメアリーになりうる。

ここまでしぶとく、ひとつの家庭に入り込もうとしないで、途中であきらめる人ならその倍はいる。トム&ジェリーの夫妻は、冷静なように見えても、50の同僚が30の息子に手を出そうとしているのを見て平気ではないわけで、そこを思いやれずにグイグイ押すのはかなり無理があります。

「私はもうババアだけど、あと30歳若かったらね~」みたいに自分を低く置ける人なら、逆に若い子とのロマンスもあったりするんじゃないかと思うけど、「私若く見られるのよ」は言っちゃダメなんだよね。

彼女は自分の欲しいものはイメージできるけど、自分を鏡で見ることができない。どんな若い男も、どんなイケメンも、そのうち皺くちゃになるし、そのうち太って病気にもなる。家族になるということは、それでも一緒にいて助け合うっていうことなのに。

メアリーも、母の死を受け入れられず暴れるカールも、生きるのが下手で、人を思いやるという部分が壊れてる人たちだ。人として大事な部分がきちんと整ってるトム&ジェリーだけが良くてほかはダメだから去れ、というのもちょっと寂しいですね。ジェリーはカウンセラーをしているから、どこからか度を越してしまったメアリーの欠落に、プロフェッショナルに対応するしかないと気付く。

メアリーって、日本のホームドラマだと「空気が読めないけど親切な人」っていう、もう少しいいキャラクターになりそうだけど、たぶんイギリスではトム&ジェリーの反応のほうが素直なんだろうな。日本でも、団地のお隣さんどうしとかが舞台だと、この映画と同じ形になるかもしれない。

ケイティ(息子のガールフレンド)はユーモアがあって気が利くという設定だけど、そういうのも日本の私たちにはそれほどピンと来ないので、この「空気」についての映画が「そうそう、あるある」という反応はできない。

これって、自分を捨てようとしている男に食い下がる女にも応用できる話なんだろうな。ていうかメアリー、やばいなこの空気、と気づいたらすぐに帰れよ!共感してしまう部分もあるからこそ、早く自分を救ってほしいと思う。 

ちなみにメアリーを演じてるレスリー・マンヴィルは、「ファントム・スレッド」では仕立て屋レイノルズの右腕のやり手マネージャーを演じた人で、この振れ幅はすごい。ゲイリー・オールドマンがまだシド・ヴィシャス役とかやってた頃の妻でもあります。この演技力、ロマン・ポランスキーの今の妻エマニュエル・セニエともいい勝負だなぁ。これくらい自信や実力がある人じゃないと、こんな振り切れた痛い演技もできないのかもな・・・。

家族の庭 (字幕版)

家族の庭 (字幕版)

 

 

マイク・ニューウェル 監督「ガーンジー島の読書会の秘密 」2269本目

原題の直訳=会の名前は「ガーンジー島 文学と芋皮パイクラブ」か。

面白かったし、いい映画だった。

英国のはしっこの小さな島の「読書会」というだけで、思索深くユニークで地域に根差した、何かすごく珍しくて面白いことが始まる予感がしますよね。

推理小説ではないので視聴者に謎解きが求められるわけでも、トリックが凝ってるわけでもないけど、拒絶されながらも深入りしていく主人公の気持ちに完全に入り込んでしまいます。島の魅力的な人々、悲しくショッキングな戦争の歴史、凛とした美しい女性の思い出、そしてロンドンの虚飾とその地の誠実さの間で揺れ動くヒロイン。

謎解きと、都会vs島の人間関係のほかに、恋愛というファクターを入れたりしない監督もいる。「オレンジと太陽」のジム・ローチとかね。この映画はヒロインを純真で可愛いリリー・ジェームズにした時点で、ニューウェル監督の恋愛ファクターを入れ込むという判断が明確になってる。

それにしてもガーンジー島に惹かれます。行きたくてたまらなくなりますね。この映画は2018年なので、きっともう「ここであの場面を撮影しました」みたいな看板があちこちに立ってることでしょう。それでも行きたいな・・・。

パトリス・ルコント監督「スーサイド・ショップ」2268本目

えっパトリス・ルコントが監督?「髪結いの亭主」の?ということは安心して見ていいやつだな・・・。

テイストは「アダムス・ファミリー」とか「ナイトメア・ビフォー・クリスマス」と同じで、どうやったらポジティブを避けられるか考えて考えて作ったアニメーションです。日本だと「笑ゥせぇるすまん」に近いのかな。

店長のファーストネームが「ミシマ」とは、ハラキリ道具一式をそろえている店にふさわしい。など、死をめぐる文化のいろいろが面白い。

割と教訓的に「死ぬな幸せになろう」というテーマに帰結するところが、フランスだからもっとブラックに終わると思ったのに、と、ハッピーなのが納得いかないような不思議な気持ち。でもアメリカ以外のアニメってなかなか見られないので、見てよかった!

スーサイド・ショップ (字幕版)
 

 

フロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク 監督「善き人のためのソナタ」2267本目

感動した・・・。こういうふうに、感情を抑えて抑えて作られた静かな映画ほど、深く刺さる。

東ベルリン出身の知り合いの夫妻は、壁が崩壊する前に教育を受けたので英語がほとんど話せない。仲良くなっても、当時のことは決して話さない。ベルリンで当時の生活の博物館に行ったら、意外に可愛い洋服やグッズがたくさんあったけど、こういう映画を見ると、何にしろ思い出さないほうがいいことなんだ、ということがわかります。まだそのころを生きた人がたくさんいるから。

どんなところにも、出世のため、生き延びるために人を踏み台にできる人と、できない人がいる。なんだかんだ言って、きっと「できる人」がたくさんいるんだと思う。

HGWXX/7さんが、左遷されても生き延びて、彼の本に出合えてよかった。

これが現実だったら、彼は壁の崩壊を知ることはなかったのかもしれないけど・・・。

善き人のためのソナタ スタンダード・エディション [DVD]

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園子温・山内ケンジ・ 太田光・ 児玉裕一監督「クソ野郎と美しき世界」2266本目

面白かったな。映画というのかこれは?ストーリーもいちおうあって、大団円はあるけど結末はなく、見せ所はたくさんあって下品も上品もある、暴力も愛もある、 芝居もあれば歌もある。ショーというかテレビ番組みたいなものですね。やっぱり、稲垣・香取・草彅の3人がやりたいことってのはテレビから生まれたものなんだな、と思う。

稲垣くんがずいぶんおじさんっぽいなと思ったら、もう45歳のおじさんだもんね。「純列」にいそうな感じになってる。園子温の作品はいつも通り、エロとグロ抑え目の派手で楽しめる作品。山内ケンジの作品は、いいんだけど“クソ”が出すぎてるので嫌な人は嫌かも。太田光の作品は、いつもこういうのdisってたんじゃないのか、と思うようなめんどくさいタイトルで、草彅くんと尾野真千子が叫びすぎるし、思いのほか情緒的でちょっとこの中では違和感があった。大団円は逆に、これでいいというか、ロマンチックで華のある歌と踊りがやはり3人の最大の魅力なんだなと改めて思いました。SMAPで歌がうまいのはキムタクだけ、というイメージがあったけど、この3人の歌も、さすが10代のころから歌いこんでいるだけあって、聞かせますね。

やっと見られてよかった。(なぜかTSUTAYAでレンタルしてないもんで・・・)

 

デヴィッド・O・ラッセル 監督「ハッカビーズ」2265本目

うーむ、厳しい。一生懸命見たけど、場面場面は面白いけど、つまらなかった。この監督の映画で好きなのもあるのに、どうしてこうなるんだろう?

それでもレンタルしたということは、誰かがどこかで勧めてたんだろうけど、今回はちょっと乗れなかったなぁ。すみません。

ハッカビーズ [DVD]

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