映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

マーティン・ブレスト 監督「ミッドナイト・ラン」2118本目

1988年の作品。80年代らしさが好きです。ベトナム戦争後の気さくさや気楽さがまだ残っていて、豊かになりつつあるアメリカ。ロバート・デニーロのフランクで切れ者で肝の据わった個性がフルに発揮されていて、とても面白かった。”相棒”となるチャールズ・グローディンも、一見普通の事務員のようなのに反骨精神が強くて、デニーロ並みに土壇場に強く、素敵なコンビ。

誰も死なないし、誰も傷つかない、人間を信じさせてくれる映画。今の時代の私たちは、このままタダでは済むまい、家族も君たちも地の果てまで追ってこられるぞ、などと不穏な思いを抱いてしまうのですが、ここは80年代の気分で今の幸運を嚙みしめようではありませんか・・・。 

ミッドナイト・ラン (字幕版)
 

 

 

マイケル・アリアス 監督「鉄コン筋クリート」2117本目

雑誌に連載してた昔、友達が絶賛してた。週刊誌はほとんど一色刷りだけど、この映画は全体的に黄・赤が強くて(空まで青じゃなくて黄色の強いグリーン)、複雑(描き込みが細かい)なので、立体曼荼羅をぐるりと見ているようで、紙と印象が違います。

近未来が舞台のアニメや映画のほぼすべてと同じように、この映画にも香港の場末みたいでブレードランナーみたいな世界があります。

声は、シロが蒼井優でクロが二宮和也。これがぴったりなんですよ。天真爛漫な不思議ちゃん、闇を秘めた義賊、のようなそれぞれの性格に。

音がきれいだな。15年前に20代でマンガを毎週読んでた世代の音楽。私は原作を25年前に読んでいた世代なのでちょっと違うけど。まだあの頃のロックはビートが単純でエレクトロニックというよりエレキだったから。

松本大洋の絵は、人間も建物みたいに描く。こういうかたちをしていて、こういう気持ちがあるからここがこう引っ張られる、というような。

個性のかたまりのようなこういう映画の作り方も、いいんじゃないでしょうか。ただやっぱり、黄色と赤が強すぎると思います。 

 

 

リュック・ベッソン監督「フィフス・エレメント」2116本目

タイトルだけを見て、ミヒャエル・ハネケ「セブンス・コンチネント」を思い出して、生きる気力を無くしそうになったけど、元気が出るような映画でした。「レオン」+「ブレードランナー」かな?ベッソン監督って、おかっぱで童顔で気が強くて戦闘能力の高い女性が好きなのかな。(cf. レオンのナタリー・ポートマン

”5番目の要素”ときたら木火土金水かと思ったら木と金がなくて風がありました。映画全体はとてもポップで、ブルース・ウィリスにミラ・ジョボヴィッチ、悪の親玉にゲイリー・オールドマンとお馴染みのリッチなキャスト。

しかし、どうも新鮮味がなくて・・・。冒頭の300年前の砂漠の遺跡のあたりですでに、説得力を深めようという気概のないまま大した驚きなく迎え入れられる異形の宇宙人、なぜか彼らをデフォルトで受け入れて考古学者を攻撃する聖職者。観客としては、もっと感情移入したいので、驚いたり戸惑ったりして欲しいんですよね・・・甘えてるかもしれないけど・・・。 

フィフス・エレメント (字幕版)
 

 

 

ブラッド・アンダーソン監督「ワンダーランド駅で」2115本目

綺麗な女優さんだなぁ、ホープ・デイヴィス。こんな風な、しなやかで扱いやすい金髪そ無造作に束ねて、自然体で愛想笑いとかしないで彼女みたいになってみたい。というような、今だけの思いつきで、こういう映画を見るのが楽しい。絵がとても地味で日常っぽいからイギリスの映画かと思った。舞台はボストンらしいけど、こういう地味な絵作りって好きです。

すれ違ってすれ違って、なかなか出会えない彼はアラン・ゲルファンというんですね。彼もまた派手すぎなくていい感じ。そして、彼女の元彼のエコでロハスな勘違い野郎、髪を切って戻ってくるまでフィリップ・シーモア・ホフマンだって気がつかなかった。

空港の次がワンダーランド駅。音楽もボサノバやジャズのクラシックなスタンダードなのがいいですね。

どこがよかった?と聞かれても説明が難しいし、二人の出会いや一目惚れを説明するのも難しいけど、なんか好きですね。こういうのが、(特に女性には)恋愛映画のクラシックとして残っていくのかも。 

ワンダーランド駅で (字幕版)
 

 

フレッド・ジンネマン 監督「ジュリア」2114本目

幼ななじみの大好きな女友達(ジュリア=ヴァネッサ・レッドグレイヴ)がレジスタンスに走る。自分(リリアンジェーン・フォンダ)は冒険が苦手な女だけど、彼女に会いたい、彼女の頼みなら聞いてあげたい、という気持ちで何回も国境を越える”運び屋”の役割を引き受けてしまう。入れ替わり立ち代わり、知らない人たちが現れてこんなに怖がりな人には重すぎるミッションだ・・・。すっかりリリアンになりかわって、動揺し続ける観客=私なのでした。

「バーバレラ」では奔放な女の子だったジェーン・フォンダは、もうこんなに知的な大人の女性になって、ジュリアへの想いと揺れる気持ちを見事に表現していました。この映画ってなんというかオチがないんだけど、これ実話だからね。現実ってそんな風に、モヤモヤを一生抱えつづけるものなんだと思う。そのまま生きて戯曲を書きつづけ、そのまま死んだ。彼女が抱きつづけた熱い想いのことを考えると、なんとも言えない気持ちになりますね・・・。 

 

マリク・ベンジェルール 監督「シュガーマン 奇跡に愛された男」2113本目

面白い。私、こういう謎ってそうとう好きです。失われた名曲たち、誰も知らないミュージシャン。

答が存在する謎にたどり着けない、目の前に透明な壁があって、その先が見えてるのに行けない、そんな謎。頭が子どもみたいに純粋な「?」でいっぱいになって、目がキラキラしてくる。

ロドリゲスという人物も謎だけど、南アフリカのあまりの遠さ。アルバムが100万枚売れても誰一人、彼を呼んでコンサートをさせようと思わないくらい、誰も彼を探しに行かないくらい、南アフリカの人たち自身がそこを地の果てだと思っている。(死んだというデマを流したのは、著作権料を払わずにCDを売ってた海賊版屋じゃないかと思う)英語を話す国だけど、英国からの距離はDown underと呼ばれてるオーストラリアよりも遠い。

対象が音楽ってのがまたロマンチックですよね。「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」もよく似たテーマだけど、楽曲の素晴らしさがエピソードの感動を何倍にもしてくれます。

印税をもらい損ねたけど、ミュージシャンにとっては、知らないうちに自分の曲が遥か彼方のどこかの国の人たちを元気付けてたって事実はすごく大きなことなんじゃないかな。知らないうちに自分は神だった、というくらいのインパクト。

彼が「発見」されてからのことを、第三者のような立場の娘たちに語らせるのもよかった。この映画を日本で見る人たちは、誰も南アの興奮を知らないのに、だんだん映画に入り込んで、ステージで生きていて、意外とちゃんとカッコよく歌っている彼に見入ってしまう。これが映画ってもののマジックだ。

感想で彼の人柄を褒めてる人が多いけど、確かに神様みたいないい人だ。娘たちも素直でとても感じのいい人たち。彼は人前で歌っていないときの時間もきちんと生きてきて、ちゃんと幸せな人生を送ってると思う。

なんか泣けるんだよなぁこういう映画って。一人の美しい人生そのものだから。人間ってパッと見、どんな顔でどのくらいの大きさでどんな格好をしてるか、ってことくらいしかわからないけど、中にこんなにじわっとくる音楽が入ってる人がいる。見た目ではわからない。私の知らないすごい人が私の周りにもたくさんいるかもしれない、と思える。 

 それにしても南アフリカの辺境感は半端ないなぁ。去年行ったのに、通り一辺倒のツアーでは何も見えなかった。いつか長く滞在して、レコード屋に行ったり地元の人とロドリゲスの話をしてみたいな。。。 

 

カーティス・ハンソン監督「L.A.コンフィデンシャル」 2112本目

1997年といえば20年以上前の映画だ。どうりでラッセル・クロウケヴィン・スペイシーも若い。不思議なくらいこの二人が似て見える。二人とも、若い頃のほうが強面のケンカの強い町のワルっぽいなぁ。お堅く見えるガイ・ピアースが「メメント」では激しい性格を演じ切ってた。この映画、キャスティングが素晴らしくて、それぞれの演技が映画賞ものだなぁ。ジェームズ・クロムウェルも、いつもなら腹黒い会社重役止まりだけどこの映画では一歩踏み出した悪い顔を見せる。ダニー・デヴィートも貪欲な記者だけど愛嬌がある。

映画のネタとしては珍しくも新しくもないのに、すごく面白い。この構成の妙。

「悪いヤツといいヤツが逆だった」というのがありがちなどんでん返しのパターンだけど、この映画ではだいたいみんな悪い刑事で、より悪いヤツと意外といいヤツがだんだん分かれてくる形なので、「あー」「そうだったのかー」と、驚かずに楽しんで見られました。

それにしても、真面目に見える風貌って強いな・・・最初から悪いことしか言わないのに、まさか黒幕だとは・・・(これだけならネタバレじゃないよね?)