映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

オットー・プレミンジャー監督「或る殺人」 1983本目

なにこのタイトルのカッコよさ?ジャズ・トランペットのアンサンブル、幾何学的なイラスト。同じ監督の「バニー・レーク」みたい。ジェームズ・スチュアート弁護士がロードハウスでデューク・エリントンとピアノを連弾する場面も素敵だけど、本筋と関係なさすぎかな・・・。

最初は退屈な気もするんだけど、殺人者の妻マニオン夫人(「ローラと呼んで」)が、レイプされたとは思えない”しな”を作って男に色気を振りまいてるのが怪しいし、証言もまるで嘘っぽい。車の外に投げ出された犬が、気がつくとまた乗り込んでいて、懐中電灯をくわえて道案内をしただと?

・・・こういう、言葉にしづらい不自然さが積み重なっていくのがプレミンジャー監督の映画の醍醐味なのかもしれません。この映画の場合、それを解き明かしていく法廷の場面が映画の半分以上を占めている、つまり「法廷劇」。2018年と違うのは科学捜査の精密さくらいで、現場に残されたものや精神鑑定のための複数の医師の招致、細かい証言や証拠の積み重ね・・・とても理にかなった審議が進んでいきます。

が。最後の最後は、「してやられた」というより「ええっ」という感じ。オチがないと言ってもいいくらい。法廷劇の弁論大会にがんばって耐えて最後まで見たんだから、何かもうひとつ、ご褒美にカタルシスをくれよプレミンジャー監督・・・。

ところで、ジェームズ・スチュアートの友人の酔っ払い弁護士を演じたアーサー・オコンネル、すごく愛すべき人物ですね。こういうキャラクターって最近の映画であまり見ない気がします。事務所のしっかり者の秘書も素敵。はっきりものを言うのに、ユーモアと包容力があって頼られるタイプ。(「お給料を払っていただくまで、首にはできませんよ」)最後にもう一度出てきてほしかったな〜。

或る殺人 (字幕版)

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アラン・ロブ=グリエ 監督「グラディーヴァ マラケシュの裸婦」1982本目

最近のネットニュースで、この監督の作品が集中上映されるというのを見て興味を引かれたので、今借りられるのをとりあえず1本借りてみました。

やたらと「官能的」と書かれていますが、いやらしくもないし官能的とも思えず、アヘン窟みたいなゆったりとした退廃に飲み込まれて出られなくなった男の、哀れで美しいお話という感じでした。

この監督が脚本を書いたという「去年マリエンバードで」はあのゆったりとしたテンポや夢の中みたいなセリフが好きでした。この映画を見てみると、マリエンバードのちょっと酔ったような不思議さは、アラン・レネ監督というより脚本を書いたこの人の個性だったんだな、と気づきます。アラン・レネ監督の他の映画って、もうちょっと現実っぽい。でも、どっちか一人より、二人で作ったマリエンバードの方が私は好きかも。

あれ、「木と市長と文化会館」の市長の恋人で小説家だったアリエル・ドンパールが出てる。この映画でも小説家と名乗ったり女優と名乗ったり、得体が知れないキャラクターです。ジェームズ・ウィルビーは大昔「モーリス」で素敵なブロンドの若者を演じた人ですね。(すぐわかってしまった)フランス語話せるんだ。

オチのない夢みたいな作品だったなぁ。でも、この1本だけで決めるのはつまらないので、他の作品も見てみよう。

グラディーヴァ マラケシュの裸婦 [DVD]

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D・W・グリフィス 監督「散り行く花」1981本目

今見られる映画の中でも最古の部類に入ると思われる、1919年の作品。ワクワク。

最初のしばらくは上海の本物の情景が続くので、どこの映画だっけ?と思いますがアメリカ映画。彼らはこの街を当時こんな風に見たんだな・・・。エキゾチックな美しさと賑やかさにあふれた、活気のある街です。ただ、主役の青年が中国人という設定なのはちょっと冗談に思えるくらい、完全に欧米人ですねー。(※「八月十五夜の茶屋」のマーロン・ブランドの努力を見習ってほしい)

ロンドン編ではリリアン・ギッシュが大きな瞳をウルウルさせて登場します。すごく可愛いけど猫背でよちよち歩くし、服装も「おばあさんのケープ」みたいなのを羽織ってる・・・いやよく考えたら、ちょっと昔のおばあさんたちがこういう格好をしていたのは、若い頃からずっとなんでしょうね。こういうケープが当時の流行の装束だったってことですね、多分。彼女が90歳を超えた頃の「八月の鯨」を昔見ましたが、おばあさんっぽくない現代的な女性だった記憶がうっすらとあります。成長してからも、ピシッと筋の通った強くて可愛い姿だったなぁ、ずっと。

この頃の俳優って、男性も女性もただ美しいというより、清らかな天使みたいな風貌、立ち居振る舞いですよね。

もう設定が、かわいそうでかわいそうで救いはないけど、魂が天国に登って行くようのが見えるような清らかさ。いつの時代でも人間には、汚れのないものを求める気持ちってあると思います。「ある愛の詩」とか、今なら「この世界の片隅に」とか・・・。忘れがちな心の琴線に触れる映画でした・・・。

※彼女が彼を英語字幕で「Chinky」って呼ぶのがちょっと衝撃。親しみを込めて「y」をつけても今では差別語として絶対に使われないから。でも昔は普通に使ってたのね。グリフィス監督はKKKの映画(國民の創生)を作っ他のは、彼がそのとき黒人は暴力的だと思ったからで、平和を愛する中国の仏教は善きものだと思ったのかな。既存の位牌を今死んだ人に捧げることはないとか、僧侶はあんな格好してないとか、殺人も自殺も普通しないとか、仏教に対する理解は少なかったみたいだけど、憧れがあったのかな・・・。

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森一生 監督「ある殺し屋」1980本目

1967年の作品。

うっかり続編「ある殺し屋の鍵」の方を見てしまったんだけど、こっちの方が評価が高いようなので、やっぱりこっちもレンタル。

不思議な魅力がある映画ですね。大映映画の暑苦しさが、市川雷蔵成田三樹夫の涼しさで中和されていて、なんかクールです。雷蔵の、しれっとした大胆さと几帳面さ。彼の言葉は全く無駄がなくストレートで、板についてるんですよね。着物の着こなし、立ち姿の完成度など、歌舞伎をやっている人にしかない美しさってありますよね。

成田三樹夫は本当にカッコいい。Mr.ビーンのようなヘルメットヘアだけど、姿かたちがいいし野川由美子はキュート。花柄の白いスーツがすごくおしゃれ。まだ幼い小林幸子!、安定の小池朝雄・・・。名前を知らない悪役たちも、なかなか色気があって素敵。

続編では踊りの師匠の殺し屋、名前は新田だったから、小料理屋をやっているこの映画の塩沢は別人という設定でいいですかね?名前と仕事を変えて生きてる、ってのもありうるけど、日本舞踊の師匠には一朝一夕ではなれないぞ・・・(そんな理屈はいいから)

この映画、時系列がすごくわかりにくいんだよね。野川由美子演じる圭子は一人二役か?と思ったよ。そういう妙な凝り方をしてるところが、突っ込みどころではあるんだけど、海辺の墓地の隣のボロボロのアパートとか、それと対照的なホテルの豪華パーティとか、なんとも味があっていいです。圭子が着物を着ていつも一人で行ってるホテルのレストランで食べている「ビフテキ」とか。(ホテルにいる時と小料理屋にいる時と、全く言葉遣いが違うんだけど、これはTPOというかコスプレみたいなもんかな。)

どこの海辺でロケをやったんだろう?最後に塩沢が乗り込む電車は、明らかに小豆色の阪急電車(駅の窓口には「日本国有鉄道」って書いてあるけど、、)。ネットで調べたら、全編神戸ロケという情報がありました。建設直前のポートピアのあたりかなぁ。今はもう日本中探しても見つからないような、ボロアパートと墓地だけの殺風景な海岸。この映画は本当に絵が素晴らしいです。色々面白いところがたくさんある映画でした。

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エリック・ロメール監督「木と市長と文化会館 または七つの偶然」1979本目

フランス人って議論好きなのかな〜。

私がよくわからなかった「緑の光線」も、なんとなく”頭でっかち”な女の子がわだかまる映画だったけど、この映画でもあーだこーだとみんなそれぞれの理屈をこねたり、上手いことやろうとしたり、自然派だったり都会派だったり、革新派だったり温存派だったりします。結局のところ<以下、ネタバレというか結末バレ>文化会館建設計画は、彼らが反対したのとは違う理由で(表向きは?)頓挫し、勧善懲悪のような落ち着き方はしませんでした。監督は実際のところ、緑を守ろう!という立場なの?それとも、あーだこーだ言う人たちを、くすくす笑いながら見てるのかしら。

どこを楽しめばいいのかよくわからない映画だったけど、この映画に出てくる人たちは、誰も嫌いになれませんね。誰にも肩入れもできないけど・・・。 

リュック・ベッソン監督「レオン」1978本目

 何回も見たはずなんだけど、冒頭の、マチルダのチャラい家族の日常の場面を忘れてたし、悪徳警官はゲイリー・オールドマンじゃないですか。目が離せなくなって、最後まで見ちゃいました。

ナタリー・ポートマンは、当時もずいぶん言われただろうけど、「タクシー・ドライバー」のジョディ・フォスターにまさに匹敵する、なんとコケティシュな魅力。かと思うと、拍子抜けするくらい子供らしくカワイイ。これは夢中になるよなぁ・・・。一方のジャン・レノは、私の記憶の中の彼より若い。寡黙な殺し屋だけど、渋いというより、あんまり賢くなさそうな役どころだったのね。こまっしゃくれたマチルダは、字も読めないレオンを、まるで亡くした自分の弟みたいに思い通りにしながら、愛しさを増していきます。

ヤク中で極悪なゲイリー・オールドマンは、嫌になるほど嫌なヤツ(笑)・・・彼やっぱり悪役の方がいいなぁ。美味しいなぁ。チャーチルはなんかコスプレか三次元キャラみたいだったもん。

改めて、本当に映画マジックにあふれた傑作だなぁと思います。出演者、街の情景、ストーリー、音楽、いろんな要素がきれいに融合した結果。久々に見てみてよかったです。

レオン 完全版 (字幕版)

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ハイアム・ジョーンズ監督「カプリコン・1」1977本目

面白いし、怖い映画ですね。

NASAが当初は協力すると言っておきながら、途中から拒絶したとか、イギリスで最初に上映されたとか、因縁たっぷりの映画です。これを見て誰もがアポロ11号がフェイクだったという、まことしやかな噂を思い出すわけですよね。(しかも監督がキューブリックだった、とか。)映画「アルゴ」が実話だと知っている2018年の私たちは、(あの国ならやりかねん・・・というか、できてしまう・・・)と妙に実感してしまうのです。

アポロ11号はまだ戻ってきたから良かったけれど、もし戻って来られなかったら・・・?

この設定を思いついた時点で、製作者にはもうこの映画が最後まで見えていたでしょうね。「正義が勝ち、国家が裁かれる」みたいな強烈な終わり方をしないのがスマートで良かった。面白かったです。

カプリコン・1 [DVD]

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