映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

トニー・スコット監督「トゥルー・ロマンス」 1906本目

1993年のアメリカ映画。といっても25年前だ。

監督のトニー・スコットは「トップ・ガン」の人。アメリカらしい爽やかな映像を撮りますね。この映像にして、クエンティン・タランティーノのマニアックな脚本。主人公のイケてない青年は映画マニア(サニー千葉の大ファンw)で、ドラマティックなシチュエーションでやけに強気。何かの主人公になりきってるみたいに。

テンポのいい展開で、極悪な奴らや、得体の知れない奴らがマンガみたいな死闘を繰り広げるこのタランティーノ節。意外なほど盛り上がります。

そしてこの豪華キャスト!

コールガールはその後6歳の僕のママとなったパトリシア・アークエット、そのヒモはその後チャーチルになったゲーリー・オールドマン(この頃はシド・ヴィシャスだのこの役だの、チンピラ役ばっかり)、主役の父はデニス・ホッパーだし主役の友達の友達にしれっとブラッド・ピット。元締めには迫力満点のクリストファー・ウォーケン。元締め側のワルにサミュエル・L・ジャクソン。等々。

アークエットがやけに、とろんとして可愛いブロンドで、女ってのは若い頃はこんな風で子供を産むとみんなたくましくなるのかしら・・・とか思ってしまうな。

 ブラピはこういう地味なろくでなしの役がすごくチャーミングなんだよね。押し出しの強いヒーローやヒールより、こういう彼のほうが好みです。

大勢が口々に「銃を捨てろ!」と言い合う騒がしい現場とか、北野武園子温みたいです。

うーむ、この楽しさ。映画ってやっぱり脚本なんだなぁ。いいもの見せていただきました。

 

 

ハル・アシュビー 「さらば冬のかもめ」1905本目

1973年の「ニュー・アメリカン・シネマ」。

KINENOTEのビジュアルのジャック・ニコルソンは、まるで「Tom of Finland」。

彼がゲイって設定はなかったよね??

お金を”盗もうとしただけ”という軽罪で8年もの刑を受けてしまった、まだ少年のような海兵メドウズを護送するのが、ニコルソン演じるバダスキーとオーティス・ヤング演じるマルホール。最初は真面目に仕事してるように見えたのに、気がつくとみんなでビールを飲んでいたり、念仏を唱え始めたりして、おかしな様子。何しろ罪が人道的に見てあまりにも軽いので、見てるこっちもなんだか気楽です。

(羽目を外しすぎると、ニューシネマは最後にひどい目にあうぞ・・・と、ついうがった見方をしたり)

一貫してあかるい映画なのですが、子供のように人の良い、まだ女性も知らない兵士が、ちょっとした失敗で転落への一本道に巻き込まれそうになっているのが、理不尽に思えてきます。未成年だし未遂だし、シャバにいたら8年も食らうような罪だと思えない。これから彼を戦争へ送り出す兄達みたいに、売春宿に連れて行ったり、悪い遊びを教える彼ら。この坊やは刑務所生活をやり抜けるんだろうか?出所後、自力で生きていけるんだろうか?

恐怖にもオカルトにもミステリーにも傾かず、あくまでも目に見える、手で触れる現実を描いた映画でした。

 

さらば冬のかもめ (字幕版)

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フランクリン・J・シャフナー 監督「ブラジルから来た少年」1904本目

1978年のイギリス映画だけど、日本で劇場公開はされてないらしい。

出演者みんな強い英国アクセントで、すごく英国的な映画です。そして、グレゴリー・ペック62歳、ローレンス・オリヴィエ71歳、ジェームズ・メイソン75歳といった往年の大スターたちの共演。こんな配役ができた最後の時代だったのかもしれません。

派手なCGもカメラワークもないけど、全員の演技が実にうまくてじわじわとリアル。BBCが作ったサスペンスドラマみたいに、スリリングですごく面白い。こういう作品に出会えるから、全く知らない映画をテレビで見るのも大事だわ。

グレゴリー・ペックは大柄でがっしりしてるんだけど、ロマンチックで優しい「ローマの休日」の風貌とは打って変わった悪辣さ。なんだか別人のようだけど、迫力があります。ローレンス・オリヴィエは若い頃はすごく精力的な感じだったけど、優しく枯れています。ジェームズ・メイソンも柔らかくなったなぁ。年を経て変容した名優たちの姿を見るだけでも価値があります。

ペック演じるナチスの医師メンゲレと、彼を追うリーベルマン(ローレンス・オリヴィエ)の死闘もすごい迫力です。ドーベルマンの群れもすごい。少年たちの青すぎる眼(カラコンだろうな)も、夢に出そうなくらい印象的。

おっと!そしてこの原作、悪夢的傑作「ローズマリーの赤ちゃん」の原作者でもあるんですね。幅広い才能。

 いやー面白かった。こういう映画を見なきゃね!

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ジャン・ジャック・ベネックス 監督「ベティ・ブルー インテグラル」1903本目

まだ見てなかったのが意外。若い頃の私が見そうな映画なのに、存在を忘れてた。やっと借りてきました。

で、感想だけど、いい。この映画、良いです。
ロクデナシたちのバカみたいに純粋な愛、って最高にいい。
 
ベティの天衣無縫な可愛さは、ハラハラしながら目が離せない。
笑った顔が水原希子みたい。今見ても現代的な、少女が憧れる少女という感じです。
あんな町のあんな小屋に住んで、ベランダで一緒にワインを飲むなんて、天国かしら。
ゾルグの優しさは、心が広いのか?無頓着なのか?見栄を張ってるのか?
違うな、私たちと同じで、彼女の奔放さから目を背けることができないんだ。
誰でも自由に生きたいと思っていて、枠からはみ出したいと思っているのに、自分で自分を縛っているから、彼女をそんな自分の出口のように思ってしまうんだな。
 
ただ、大きすぎる愛は相手を意外と傷つける。
純粋さはすぐ粉々に壊れる。ベティの心もゾルグの心も。
 
ゾルグを演じたジャン=ユーグ・アングラード は、この間見た「5時17分、パリ行き」で描かれた「タリス銃乱射事件」に居合わせてたのか。この映画が作られて32年後に見た映画の現実の事件にこの俳優が出ていた、ということは事件が2015年だから彼はもう60代でこの映画の中の若い男ではなく・・・(混乱している)
 
そしてこの原作者は、「エル」と同じなんだ!30年間、それぞれの関係者が重ねてきた時間を思うとなんだか感慨深い・・・。

 

アレハンドロ・ホドロフスキー 監督「エンドレス・ポエトリー」1902本目

強烈な自意識の続き。
 
自分、自分、自分、
もうアレハンドロによるアレハンドロ語りの厚さ、濃さに当てられっぱなしです。
でもそこには普遍もある。
自分中心ではあるけど、自己愛と同じくらい深い自己嫌悪もある。こんな自分でも愛してやろうじゃないか、生き抜いていこうじゃないか、と、最低な天才アレハンドロ は自分に向かって言う。息子たちにも、スクリーンの向こうに向けて言う。
 
祝祭とか豊穣とかは、あるけどエミール・クストリッツァ とかセルゲイ・パラジャーノフ とか、朴訥な映画の方が神様に近いところにいるように感じてしまいます。ホドロフスキーはもっと論理的で理屈っぽい。
でも、赤い人たちと骸骨たちの絵はよかったなぁ。

 

 

S.S.ラージャマウリ 監督「バーフバリ 伝説誕生」1901本目

熱い、熱いよ!
インド人って物静かで思索深く、知的で勤勉に職場では見えるけど、集まるとすぐ踊りだすような実態が掴めないところがあるのですが、こういう映画を見ると、奴ら暑苦しさを隠してるだけだな!と思う(いい意味で)(いや本当にインド料理もインド人も大好きです)。
 
この映画、アメリカでも大ヒットしたそうですね。こんなにスパイシーな、オブラートなしのインド映画なのに!やっぱり日本映画も、お醤油の香りただよう小津映画の方が、バタくさい(死語?)現代劇よりインターナショナルに受けるのかもしれません。
 
しかしスパイスまみれではあるけど、過剰なほどの映像効果、使いすぎのCG、愛よ、英雄よ、伝説よ!
もう王の子は空だって飛ぶし彼には重力など関係ありません。この過剰感、中国の映画にも通じるところがあります(チャイニーズ・ゴースト・ストーリー的な)。
 
週刊少年マンガ誌の巻頭カラーのようでもあります。アメコミ的でもあるということかな。
こんな、ある意味とんでもない映画がインターナショナルに楽しまれてるのって、なんか愉快。
 
わかりやすいストーリーだけど、インド人の俳優さんたちが一目では区別がつかなくて・・・
意外とそこで戸惑っているうちに、あれよあれよと「続く」で終わってしまう二時間強でした。
このままでは終われない・・・「王の凱旋」も見なければ・・・!

 

 

園子温 監督「新宿スワンII」1900本目

 2017年の作品。

どういうわけか、新宿スワンの1を撮ったのは園監督だけど、2は違う監督だと思い込んでた。
 
見た後にも同じことを思っている。これは本当に園子温監督作品?
血みどろの闘争シーンもないし、広瀬アリスのダンスの場面は真剣に作られたという感じがどうもしません。
もっともっと素敵に撮ってあげられたんじゃないかなぁ。
滝(浅野忠信)と白鳥(綾野剛)の一騎打ちも、スローモーションで、ごまかしてる?
滝が逆上した関(深水元基)に話仕掛ける場面のしんみりとした音楽・・・。
どうも、「らしくない」気がしてなりません。
「忙しすぎて監督が倒れてる間に誰か別の人が撮った」とかだったら、笑えないなぁ~。
 
新ヤクザの面々は、今回も魅力的でしたが。
バカになれる男って本当に素敵。
新宿スワン?

新宿スワン?