映画と人とわたし

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

マイケル・ウィンターボトム 監督「イン・ディス・ワールド」2165本目

難民キャンプから、ヨーロッパの目的地へのロードムービー

この映画はなるべく、”かわいそう”という視点でなく、連れ立って旅する気持ちで見たい映画だなと思います。世界中のかなり様々なところに、今は比較的安全に旅行することができるけど、現地のガイドを雇っても、運よく現地に友達を作るができても、そこでの暮らしをリアルに体験することはかなり難しいから。観光客のようにではなく、彼らのことをもっと知りたいから。

アフガニスタンからパキスタンの難民キャンプに逃れてきた少年たちは、イランを目指し、トルコを目指し、イタリアへ、フランスへ、そして英国へ・・・。どんなに長くその国にいても、観光客の私は絶対入れてもらえない場所から場所へ、彼らの旅は彼らから見れば、めくるめく大冒険なんじゃないか?

カウリスマキ監督の「希望のかなた」は、彼らを追わずに、来るものを拒まずに撮影しようとした。ウィンターボトムは彼らが生まれ育った場所まで、旅程を遡ってみた。少年はたびたび、一人になる。他の人たちは、どこかで生き延びてるかもしれないけど、脱落したのかもしれない。少年は慣れない英語で、行きずりの人たちを笑わせて、時に盗みもしながら、とっても明るく元気に歩みをを進める。贅沢なものを何一つ持たない者の強さ。

でも、この映画ってどれくらいリアルなんだろうな。画面の外にいる監督はイギリス人で、カメラや照明スタッフも多くは同じだろう。映画を作ると言えば、観光客は絶対入れてもらえない場所にもついていけるんだろうか?

ユーラシア大陸って広くて深いな。アフガニスタンからパキスタン、トルコ、イタリア、フランスまで陸路だよ。今はイギリスまで列車で行くこともできる。そしてやっぱり、英語はサバイバルの道具だな。と改めて・・・。

 

増村保造 監督「盲獣」2164本目

面白かったー。

船越英二ってこういうキャラだったっけ??いいお父さんだと思っていたら、こんな過去が・・・。緑魔子は怖い怪しいお姉さんだと思ってたけど、この映画の中では(十分怪しいのは置いといて)うら若いスリムで可愛い女の子だ。

前半は、ヌードモデルと盲目のストーカー、彼が作った巨大な女性の体のオブジェ、といったおどろおどろしさを楽しんで見ていられたので、ちっとも怖くなった。でも自傷癖、じゃなくて相互傷癖が始まってからはちょっとついていけなくなりました。新鮮な恐怖、ゾッとする愛欲の深み。でも当人たちは恐怖じゃないんだよね。

村田喜代子の短編に、農家の若い男が、刺激を求める妻の足の小指を切り落としてみる、という話がある。彼らはそれを、用意してあった氷水に浸してすぐに救急車を呼ぶ。足の指は”処置がよかったので”、確かちゃんと繋がる。それが山奥の若夫婦だという設定がすごく新鮮で好きなんだけど、誰しも気持ちや行為がエスカレートしてしていくのを止められないことってあるんだと思う。

この映画は3人の役者の気持ちの入り方が素晴らしくて、フィクションに感じられないくらいでした。とても大映的、とても増村保造的な世界にどっぷり浸れる作品です。

盲獣 [DVD]

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ジョージ・ロイ・ヒル監督「華麗なるヒコーキ野郎」2163本目

大昔のサイレント映画かしら?と思ってたら、40数年前の作品でした(十分古いか)。主演のロバート・レッドフォード(ヒコーキ野郎)は紅顔の美青年だし、スーザン・サランドンはまだお嬢ちゃんという感じ。

ヒコーキ野郎たちは、こんな手作りの「鳥人間コンテスト」みたいな飛行機で、命がけの遊泳飛行をしてたんですね・・・。命がけというか命知らずというか・・・。こんな飛行機で並んで飛んで、翼の上を渡って行くなんて、ありえないよ〜〜。「ミッション・インポッシブル」だよ〜。生々しくローテクな分、ますます怖いです。飛んでるのが奇跡みたいな飛行機でこれだもん・・・。

などと動揺しつつ。

華麗に空を舞い、バタバタと落ちて行く彼らの表情の、なんと晴れやかなこと。一対一で、できる奴と対戦したい・・・という感覚は、こっちがオリジナルなので当然すぎるんだけど、対戦型ゲームに夢中な人たちと同じです。遊覧飛行だけでなく命がけの戦争を、彼らがいかに夢中になって楽しんでいたか。大概のものごとは、アドレナリンをたくさん出した方が強い。義務だ自己犠牲だといって飛んで行く人々より彼らの方が、少なくとも潜在的に強さを持っていたのは当然だったのかも・・・とも思う。人間には、戦って勝つ快感というものがDNAに刷り込まれている。子どもの頃から人と争うのが苦手で、すぐに譲ってしまう私でも、ゲームの中でなら勝ちたいと思うし、図らずも誰かのコマを叩きのめして快感を感じることもある。だいいち、この映画を見て痛快な気持ちになれるもんなぁ・・・。

本当に彼らは華麗で素敵でした。人間愛あふれる、ジョージ・ロイ・ヒル監督の世界ってほんと好きだな。

 

吉田恵輔 監督「ヒメアノ〜ル」2162本目

<ネタバレあり>

予備知識なしで見てよかった。怖い映画だった。

最初は、早回しで見ようかと思うほど地味なドラマだったけど、真ん中あたりでギュルっとダイヤルが変わる。

配役の妙がありますね。それぞれ、普段からこういう人じゃないことはわかってるのに、この人がこんな人だったらリアルだろうな、そして怖いだろうな、っていうキャスティング。

森田の最後の笑顔が、普段の彼らなんだけど、どんな人にも、大きさと深さは違うけど、闇が眠ってる。大きな事件によってダイヤルが切り換わらなければ、何もないぱっとしない日常が続く。

森田のダイヤルが最後に切り替わったきっかけは、昔自分が飼っていたのとよく似た犬だったんだよね。人をはねて走っていたのに、犬を避けて自分は電柱に突っ込んだ。終われてよかったね、殺人鬼のダイヤル・・・。

森田剛・・・アイドルなのに・・・役名「森田」でこの役という、なんだか残酷な設定。これを演じ切ることで彼の何が吹っ切れたんだろう。

「好きな人の名前は・・・岡田・・・」って言われて、「えっ俺と同じ苗字」って真顔で驚く場面でけっこう笑ったけど、その後の展開でそんな場面があったこと忘れそうになってしまった。

ヒメアノ~ル 通常版 [DVD]

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アラン・ジョンソン監督「メル・ブルックスの大脱走」2161本目

メル・ブルックスの映画は大半がパロディとどこかに書いてありましたが、これはパロディではなくリメイク。元映画(「生きるべきか死ぬべきか」)に対するリスペクトを感じさせるくらい忠実にたどりつつ、複雑さを解き明かす場面(シレツキーとソビンスキーの区別とか・・・もし元映画にもあったらすみません)が追加されたりして、わかりやすくなっています。それに、メル・ブルックスの朗らかなキャラクターでブロンスキー氏が愛嬌たっぷりで親しみやすい役柄になってますよね。女優の奥さんも、とても愛嬌のある知的な女性だけど、コメディエンヌ性が強くて、元映画のコケティッシュな感じとはだいぶイメージが違います。「卒業」のミセス・ロビンソンを演じたアン・バンクロフトなので、若い兵士が恋をする大人の女性という説得力はあります!こんなにコメディエンヌだったとは。全編がギャグ、ということがわかるので、元映画のようなスリルはあまりなく、安心して見られます。

あっ!女優と一緒に教授を待ってる兵士が「バック・トゥ・ザ・フューチャー」のクリストファー・ロイドだ。若い。でも博士だ(笑)

全体的に、メル・ブルックスの作品はあったかいですね。家族で安心して見られる映画、映画を家族で安心して見に行ける世界。彼の明るさは、きっと世の中をずっと温めてきたんだろうなと思いました。

 

アニーシュ・チャガンティ 監督「search/サーチ」2160本目

よく作られてますね。前に飛行機の中で見かかったときは、ちょっとまどろっこしく感じた(ちゃんと見ていないと構成がつかめない)けど、家でじっくり見ると、PCの世界に入り込んだようで浸れます。

<ネタバレあり>

父の知らない娘の本当の姿・・・といわれるとTwin Peaksを思い出して不良だったのかしらと思ってしまったけど、毎日一人でランチを食べてる孤独な女の子だとわかって、なんとも切なくなります。みるみるやつれていくパパの顔を見てるのも、辛くなってきます。

何が何でもコンピュータのスクリーン上で完結させるために、刑事とテレビ電話でしか会話してないのはちょっと不自然だけど。(この不自然さがのちに・・・)家のPCがWindowsで娘のがMacという設定もありそうで、うまい。

ネットで娘の事件をググったら、適当な分析サイトや、車の写真、父親自身が犯人だという説まで見つかったりするのが、なかなか辛い。

疑わしい人のところへ押しかけている時に刑事から緊急電話がガンガン入る緊迫感も面白い。なんだか、「ネットで起こることが現実だと思えない」という奇妙さを映画にしたというメタ構造が、逆に現実のように思えてくるのが不思議。

しかし、USには自分の映像をただ流すだけのメディアや、お葬式のビデオを作ってくれたり撮影してくれたりするメディアも、多分ほんとうににあるんだろうな。

有名な俳優が出ているわけでもなく、空中撮影は多分ドローンだろうし、割と低予算な映画かなと思ったら、やっぱり1万ドル(1億円超えですが、アメリカ映画では多分すごく安い方)。これをこんなにスリリングに作るのは、なかなかの手腕だと思います。この形の映画で観客を再び驚かせることはできないけど、思い切りエンタメに走ることや、近未来のちょっと先を行くSF映画もできるかもしれない。面白いし、未来も楽しみになる佳作でした。

Search/サーチ  (字幕版)

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マイケル・ムーア監督「華氏119」2159本目

やっぱり面白い、マイケル・ムーアの映画は。

そして今回も、彼が書いたシナリオ通りにそれに合う映像やエピソードを集めてきて編集したんじゃないか、つまり、彼が決めた結論ありきなんじゃないかと思うくらい、強い説得力があって納得させてしまう。ドキュメンタリーの世界的な潮流は、こういうストーリー形式ではなくて、もっと淡々と時系列的にひたすら事実を両面(製作者が賛同する方としない方)から拾い上げてつなぎ、見る人に考えることを促すほうに向かっていると聞いているので、マイケル・ムーア方式はある意味古臭い。自力で情報を集めたり考えたりできない人たちをオーディエンスとして想定して、彼らを救うという強い正義感で作ってるってことだ。

いつも、ちょっと複雑な気持ちになるんだよなぁ。私はアメリカでは民主党を、オバマを、同性婚を支持したいほうの人間だし、銃規制を求める少年たちが地元の選挙戦を変えたというエピソードを見て、日本にできなくてアメリカにできることを羨んでしまう。それでもなお、世の中には絶対的な正義がないのと同様に、絶対的な「事実」もないと思ってる。

つまり・・・この映画には大いに賛同しつつ、常に疑い続けることが、ドキュメンタリーの精神だと思うのです。(ちょっと疲れるけど。。。)

華氏119(字幕版)

華氏119(字幕版)