映画と人とわたし

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

メル・ブルックス監督「新サイコ」2210本目

原題は「High Anxiety」、高所恐怖症って意味なんですね。 全然「新サイコ」と違うじゃないの!でも冒頭に「ヒッチコックに捧ぐ」と出るし、病院の院長として赴任してみたら前任者が変死をとげていた、とかヒッチコックっぽくなくもないエピソードが続々と登場します。この映画は、ヒッチコックの膨大な映画の数々のいろんなエピソードをパロディにした盛りだくさんな映画なんですね。

「めまい」のぐるぐる、「サイコ」と言えばシャワーシーン、など、誰でも知ってる有名シーンが盛り盛りだけど、全体のトーンが明るく軽いメル・ブルックス流なので、なんとなく軽いお楽しみ映画って印象になるんですよね。そこがなんともいいんだけど。ドリフみたいな、お茶の間でもOKな感じが。こういう映画を気軽に楽しみたい日ってあるよね・・・。

最後に気づいたこと。一件落着、二人は結ばれて、「新しい名前が・・・」というときのミドルネームが「ハーポ」だ。そう言えばメル・ブルックスのカーッと声を出さずに笑顔を作ったときの表情はマルクス・ブラザーズのハーポとよく似てる。彼が目指してるのは、ハーポみたいな罪のない、子どもにも愛されるような笑いなんだな・・・。

 

山田尚子 監督「映画 聲の形」2209本目

たくさん借りたDVDの中から、どれを見ようかなって思って手に取ったのがこれだった。なんで今日なんだ。

苦しい気持ちで、もっと苦しくなるかなと少し覚悟してみたら、なんてことだ 、楽になってしまった。きれいで可愛くて優しい世界だった。心配してるつもりなのに、逆に癒されてしまった。やさしさに包み込まれてし まった。 こんなに気持ちにしてくれる美しい作品、たからものみたいなものを作った人 たち・・・。 この人たちの作ったものを、これから作るものを、もっと見よう。ずっと見て いよう。それくらいしかできないし、そうしたいと強く思っています。

映画『聲の形』DVD

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ジョン・カサヴェテス監督「こわれゆく女」2208本目

ジョン・カサヴェテスの監督で、ピーター・フォークジーナ・ローランズが出てる映画だよ。アメリカの私の好きな面だけ集めて固めたようなもんです。嫌いなわけないよね!

でもこの映画は見て戸惑った。解説には、おかしくなってしまった妻を病院に入れると書いてあるけど、彼女の怒りや戸惑いは十分私にも共感できるもので、確かに反応はおかしいんだけど、怒って妻を殴る夫なら「病院に入れる」という考えにはならないと思う。彼女を入院するほど変だと思えない私は、病気の側に近いのか・・・。

メイベルは、普段も逆上したときも、頼りなくて少女のようなので、分裂症や躁鬱病より、強いていえば若年性認知症とか知的障害に近く見える。「頭が割れるように痛い」ってつぶやく場面があるから、脳血管の異常があるっていう設定なのか。

でも、暴れて人を殴ったりしないし、常にみんなを愛して尽くそうとするので、愛されている。

一体どこからが病気なのか、ということを私は常日頃から考えることが多い。メイベルくらいなら「不思議ちゃん」として流してあげればいいんじゃないか?この前に見た「パンチドランク・ラブ」の、切れるとガラスでも何でも殴って破壊してしまう男(怒らせる姉もなかなかムカつくんだ)の方が危ないと思うし。この映画の当時のアメリカの家庭って意外と「まともさ」に関して厳格なのかな。

監督はどうやってこの見つけにくいテーマを見つけたんだろう。身近にこういうことが起こったのかな。見た人たちはどう受けとめたんだろう。アメリカの人、日本の人、当時の人、今の人。。。

やっぱり、監督は女ばかりがお行儀の良さや出来の良さを求められるのを見て、なんとかしなければと思ったんだろうな。もっというと、自分が激昂したときの妻あるいは他の女性のもろさを見て心を痛めたのかも。彼は人間ってものが簡単に変わるとは思ってないからお説教っぽい映画は作らないけど、勇気を出してこの映画を世に出すことで、彼女たちの姿に注目してほしいと思ったのかも・・・。

原題のunder influenceってどういう意味なんだろう、何の「影響」なんだろう?って思ったけど、これは、夫やお酒やお客さんや突然の予定変更、様々なものごとの影響を受けて心が惑う女性たちの愛とやわらかさの物語なんだわ・・・きっと。カサヴェテス監督から妻ジーナ・ローランズへの深い愛とリスペクトに、拍手。

 

フランソワ・オゾン監督「婚約者の友人」2207本目

この映画のタイトルと、エルンスト・ルビッチの旧作のタイトルを見ると、それだけでネタバレになるという不幸・・・。

<ていうかこの後もネタバレ>

登場人物に感情移入をすればするほど痛く苦しい映画で、アンナと同行して映画を進めていくと(注:感情移入して、くらいの意味です)、いたたまれないし、辛いし、もうこの子死んじゃうんじゃないかしらと思ったりするけど、最後の最後に愛情のこもったハグとキス、これ1つでなんかもう色々チャラで、開き直れてルーブルで怖い絵を見ながら「生きようって思える」という。彼女の精神の健康さに救われます。旧作のほうもこれと同じ結末なのかな?

”戦争の悲惨さ”とか”愛し合う二人を引き裂く許嫁の存在”みたいなステレオタイプに観客がはまることを許さない、距離を置いた監督の視点がユニークで強い。なんというか、見ている私たちもこの現実肯定的な態度に救われる。映画と一緒に絶望して大泣きするのも一つのカタルシスだけど、私はこういう結末の引き取りかたの方がほっとする。

はー、この後はカラッと明るい映画を見ようっと!

 

ポール・トーマス・アンダーソン監督「パンチドランク・ラブ」2206本目

人形劇のようなポール・トーマス・アンダーソン節が、この映画にも健在です。

主演のアダム・サンドラーは、多分見るの初めてだけど、出演作品リストを見るかぎ理、今後も見ないかもしれない・・・それほど、たくさん出てるのに知ってる作品がない。この映画で演じてるバリーは、一見普通なのに極端に堪え性がなくて、極端に思い込みが強い。ただ、彼の怒りにはだいたい共感できる。(怒らせた方も悪い!)およそ人生において「成功」ということに縁がなさそうな男なんだけど、見ていると、なんとかして人生の糸口を掴ませてやりたい、という気持ちになります。

奇妙な味わい・・・でも「マグノリア」にすごく通じるものがある。うまく外に出せないストレスを抱え続けて、最後の最後に、破壊的だけど破滅的ではない爆発を起こすところが。

食品を買うとマイレージがもらえるキャンペーンはアメリカン航空って言ってたけど、空港で映るのは懐かしのノースウェストだ。(飛行機好きなのでつい見ちゃう)マイルがもらえる キャンペーンって本当にあったのかな。よほど競争が激しくならないと(当時のUSみたいに)、こんなキャンペーンなんてやらないだろうな・・・。

悪徳テレクラ経営者役のフィリップ・シーモア・ホフマン、なんか生き生きと演じていて嬉しい。

この映画には、つなぎに出てくるインクを水に流したような映像とか、トラックから落ちてくる「ハーモニウム」とか、ピンとこないものもたくさんあるけど、最後「まいっか」と思えるのがポール・トーマス・アンダーソン節。

 

 

シドニー・ルメット監督「セルピコ」2205本目

1973年の作品。アル・パチーノってキムタクっぽい、いや、キムタクがアル・パチーノみたいな表情をよくするのか。この頃のアル・パチーノは美しい頰をした実に美しい青年で、榊原郁恵が「アル・パシーノ+アラン・ドロン<あなた」と歌ったのもこの頃だと思えば理解できます(笑)。スカーフェイスの頃ではありえない。

この映画はまさにキムタクが主役を張る日本のドラマか映画のような、正義の美青年(かなりヨゴレっぽいけど)vs悪い同僚たちという作品だなぁ。日本だったらもっと同僚たちが底意地が悪くて、主役を撃つのなんてあくどい同僚だったりすると思うし、結末は逆にスカッと同僚たちが彼を褒め称えたりすると思うんだけど、この映画の場合は

<以下、ここで言うのもどうかと思うけど、ネタバレ> セルピコは犯罪者に顔を撃たれて、命に別状はないけど左半身が不自由になって、スイスで引退生活。「金バッジ」と言う栄誉は得たけど、ワイロばっかりもらってる警官たちは、多分少しは反省したり懲罰を受けたりしても、まあ大部分は元気に勤め上げるのだと思います。そこが違う。そこが、なんとも、もやもやする。

スカッと勧善懲悪より、この映画の方がリアルだけど・・・。私はやっぱりこのアル・パチーノの、キムタクの目線が、好きになれないんだよなぁ。中身の詰まった男じゃなくて虚勢で固まった男の視線に思えて。好みの問題ですよね、きっと。

アル・パチーノはうんと歳をとって、哀愁を感じさせるようになってからの方が好きです。

セルピコ [DVD]

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ブライアン・デ・パルマ監督「スカーフェイス」2204本目

デ・パルマ監督の映画には、ものすごくいい映画とダメダメな映画があるけど、ものすごくいい映画にも、とてつもなくB級感が漂う。これは、B級感に満ちた傑作のほう。最悪に悪趣味で、最高に痛快。娯楽、エンタメってことの安っぽさをわかってる、あるいは染み付いてる。バカ売れするマンガみたいな映画だ。だからデ・パルマ監督って好き・・・。

一流の俳優たちが、真剣な顔をして滑稽な愚者を演じる。見てる人たちが、ちょっと自分たちより下に感じて、スクリーンを指差して爆笑できるような。アメリカの子どもたちが「stupid!」って大笑いするような。で、笑った後で「あいつ超カッケー!」って改めてリスペクトする。これこそカルト映画。

冒頭のアパートの壁がピンクと水色で、クラシックカーが走り回ってたりするフロリダが舞台なのがキューバ移民の町らしくて新鮮。アル・パチーノ演じるトニー・モンタナは、反骨心が身体から溢れ出しそうな若者だけど、大志があるわけじゃなくて大きく粋がってるだけ。やたらマウンティングしようとする取引先の生意気なやつ、みたいな感じに思えてしまいますね。運が良ければそこそこ成績を上げたり、まあまあ偉くなったりするけど、どんなに大きく張っても虚勢は虚勢。と最初から見切った感じで見てしまうのですが、この、偉ぶってるだけのチンピラっぷりが最初から痛くていいんです、アル・パチーノ

レンタルしたBlu-rayは特典も豊富で、出演者、映画をノベライズした作家、ゲーム(そんなものまである)でトニー・モンタナやジーナを演じた声優、デ・パルマ監督自身、色々な人たちがそれぞれの熱い想いを語るのも盛り上がります。

 この映画を見たあととか、中上健次千年の愉楽」を読んだあととか、人間って愚行の果てに死にたいっていう願望が本質的に強いのかなと思う。教科書も親も上司も、真逆の善行を積めとしか言わないから、抑圧された破壊願望がこういう映画で炸裂する。

1つ1つの場面に、コクというか旨味というか、気持ちよさがある。何度も見返して、味わいたくなる映画だ・・・・。

スカーフェイス (字幕版)

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