映画と人とわたし

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

白羽弥仁監督「みとりし」 2285本目

普段映画ばっかり見ている会社員の私ですが、実は「看取り士」の研修を受けている。だからこの映画を客観的に見るのは難しいんだけど、なかなか真っ正面から向き合うのが難しい「死」というものに近づいて、寄り添い、受け入れることをこの映画はあたたかく描けてるんじゃないかと思います。

オール・ザット・ジャズ」でも触れていたキューブラー・ロスの「死の受容の各段階」が、この映画では一人の人の成長というより、さまざまな段階にあるさまざまな人という形で表現されてますね。ほとんどが、実際の人々の事例に基づくものです。

本物の「看取り士」は介護をする職業ではないけど、介護士や看護師でありながら看取りの研修を受けた人も多いので、今後はこの映画のようにシームレスに介護から看取りへと移っていくケースが増えていくのかもしれません。

どんな人も最後くらいは安らかでありたいと思うものだし、自分の大切な人たちも安らかに行ってほしいものだと思います。「終活」の一環として、お金や物の始末だけじゃなく、心のケアとして「看取り」について考えることが広まっていくといいなと思います。

アルフレッド・ヒッチコック監督「断崖」2284本目

ヒッチコック作品もあと数本を残すのみ。心してゆっくり楽しまなくちゃ。

原題は「Suspicion」、疑惑。でも「断崖」のほうがヒッチコックっぽいドラマが期待できて、見に行くなら「断崖」のほうだな。邦題の勝ち。

ジョーン・フォンテーンの困り顔を見ているだけで不安がつのり、ヒッチコック的な意地悪な結末を今か今かとワクワク待ってしまいましたが、この結末はなんというか、しっぽが短すぎる猫、という感じで、いちおうオチはついたんだけど、それ以外はどういうことだったの?という説明がなさすぎて寂しい。

<以下結末後の考察>

相棒にブランデーを飲ませたのは誰かというと、飲んではいけないと知らずにたまたま居合わせた英国人ってこと?自殺しそうになってる人に彼、見えた?他人に危害を加えようとしないにしても、彼って働かないしお金を持ち逃げするし、ダメなことは変わりないよね?彼女は彼を疑っては潔白がわかり、「ああ間違ってたわあなた」の繰り返し、という、かなりやばい二人になってしまいました。

面白いのは、こんなグダグダな男でもきちんとスーツを着て七三分けしてるところ。時代なんでしょうね。今は、だらしない人はこんなに身なりを整えなくてもいい時代だから。ここまで整えられる人が、ちゃんと仕事ができなかったり、金遣いがダメということが想像できない。

うーん、やっぱり最後にもうひとひねり欲しかったです。実はお手伝いさんが猟奇殺人者だとか、検視医が犯人だとか・・・。(それじゃ逆に、ありがち)

アニエス・ヴァルダ 監督「顔たち、ところどころ」2283本目

顔がたくさん、場所もたくさん、というのが原題なので、邦題はじつは直訳。
顔たちがところどころにあるんじゃなくて、顔も「ところ」もいろいろ、という意味ですね?

このおばちゃんとお兄ちゃんがどういう人なのか、全然知らないまま見ました。
普通っぽいポートレートを巨大に引き延ばして建物の壁に貼るのって、その建物をとりまく人たちに対して、とても共感的に見えるけど、じつは挑戦的でもある。コンテナに貼る写真は港湾労働者たち本人ではなく、その妻たち。という判断は少なくとも“自然”に出てくるものじゃなくて、あえて思いださせようという演出意図だもんね。そういう、日常に投げ込まれるピリッとした緊張感。

若いころ、フィルムカメラにあえて白黒フィルムを入れて写真を撮ってた時期があったなぁ。どうして色がないとどんな像もパリッとするんだろう。この映画と同じことを日本の、私の住んでる近所でやったらやっぱりこんなにピシッと決まるのかな。

この映画でアクションを起こしているのは主にJRの方で、おばちゃんは彼らが撮影行脚をするドキュメンタリーを撮影する、という役割なんだろうか?おばちゃんは「ヌーベル・バーグの祖母」と呼ばれ、ゴダールアンナ・カリーナの短編を撮ったりもしたらしい。
でも過去に栄光みたいなものがあったかどうかは、この映画ではあまり関係ない。JRが知り合いのJLG(ジャンリュックゴダール)に似てるから紹介するわ、とおばちゃんが言う場面があるけど、それがいい思い付きなのかどうか何ともいえないし、会わずに逃げたゴダールの感覚は間違ってない気もする。

世代に隔たりがある人どうしのコラボはとっても素敵なマジックがあると思うけど、なんとなく、この映画を特別なものだと思いたくない気がしています。
芸術って特別なものかもしれないけど、世界中のどこでも、こんなマジックで空気が変わることって毎日起こってほしいと思うからかな・・・。

顔たち、ところどころ(字幕版)
 

 

山下耕作 監督「博奕打ち 総長賭博」2282本目

人から薦められでもしないと見ないよなぁこのタイトル。

主役は鶴田浩二。亡くなってもう30年たつんですね。亡くなって5年の高倉健菅原文太より、最近名前を聞かないなと思ったけど、この年月を考えると仕方ないのかもしれません。

この映画は仁侠映画にしては、なんとも上品ですね。主役の妻を演じている桜町弘子のおっとりとした感じが、お姫様っぽいです。鶴田浩二と並ぶとお雛様みたいに清潔。討ち合いに至る理由も、誰かを想う優しい愛だったりして、もう騎士道といっていい世界です。(斬り合いが始まるとやっぱり血なまぐさくなるけど)

この情緒、少しでも仁侠道に共感をおぼえる部分のある人には、かなり胸にくるものがあるんじゃないかな。すごく繊細なヤクザ映画でした。

博奕打ち 総長賭博 [DVD]

博奕打ち 総長賭博 [DVD]

 

 

野尻克己監督「鈴木家の嘘」2281本目

面白かった。

設定もストーリーも面白く、いかにもなキャスティングもOK(原日出子ののんびりお母さん、加瀬亮の引きこもり、岸部一徳の逃げ腰お父さん、木竜麻生の真面目だけど現代的な娘)だけど、何より私が高く評価する「間合い」が最高でした。

特に、妹が思いつめて…母が後から追いかけて…(ネタバレにならないよう肝心な部分を抜きました)場面が切り替わったら怪しい霊媒師が家に来てる、ってところ。

めちゃくちゃ共感して大泣きしてた私の気持ちは?(笑)

リアリティがあるとかないとか、感想はいろいろだけど、監督が実際にお兄さんをなくされてるという記事を読んで腑に落ちた。たぶんあの映画の中で、妹と母のさきほどの場面はフィクションにしても、霊媒師を頼むとか頼まないとかってのは本当に考えたのかもしれない、と思う。お葬式のときキッチンでお茶やらお酒の用意をしながら、私たちなんでこんなによく笑ってるんだろう、って思ったことがある。身近な人の死って、生活の一部で起こることで、そこ以外の毎日は今までと全く同じなんだよ。現実なんだから。そういう意味でとてもリアルで痛くて、かつ可笑しい映画でした。つまり一家族や一つの国や民族や人種にかかわらず、普遍的な人間ってものを描けてた。

この作品にはおおらかなかユーモアだけじゃなくて、どこか諦念のような寂しさも感じる。野尻監督が助監督を務めた「海炭市叙景」で感じたような"うすらせつない、うすらさびしい"感じ(この映画における私の感想から引用w)。それが、実体験から産み出された、長年熟成されたものなんだな、と、納得しました。

素晴らしい感覚を持った監督だと思うんだけど、きっととてもデリケートなので、あまりつまらない作品を手がけて神経をすり減らしたりしないで、いい作品を作り続けてほしいです。

クシシュトフ・キェシロフスキ 監督「トリコロール 赤の愛」2280本目

3部作の完結編だそうです。順番間違えた。<以下ネタバレ多め>

これはあのジャンルイ・トランティニャンが出てます。彼は以前判事をやっていた時代に有罪の人を無罪にしたことが尾を引いている老人で、今は隣人が電話で愛人と話すのを盗聴することくらいしか楽しみがない。彼の犬を車ではねてしまった大学生を演じるのはイレーヌ・ジャコブ。とても無垢な女性です。老人が暗い室内で盗聴を中断されて、「犬?好きにしたらいい」と投げやりなのが異様で、彼女のまともさが際立ちます。

しかし盗聴していることを伝えに行った隣家で、小さい娘が階上の電話を子機で聞いているのを見て、この家族はみんな知っているんだと気付いて、何も告げずに彼女は帰ってきます。

あまりにも距離感の強い老人と女性ですが、時間をかけて話をする中で不思議と気持ちが近づいていきます。

はねられた犬は回復して子どもを産み、老人は盗聴のことで新聞沙汰になります。つまり、世界は正常化に向かっていく。

そして最後の“大団円”・・・ジュリエット・ビノシュもジュリー・デルビーもイレーヌ・ジャコブも、生還できて良かったね・・・といっても、他の2本をちゃんと見ていないからか、状況を把握できていません。

青と白も見てみるか・・・。

トリコロール/赤の愛(字幕版)
 

 

前田陽一監督「神様のくれた赤ん坊」2279本目

1979年の作品。桃井かおりが初々しくも度胸の据わった女を演じていて楽しい。樹木希林(もう「悠木千帆」じゃない)が置いていった男の子の父親を探す旅が、桃井かおりの子どもの頃の記憶をたどる旅につながり、ちょっとしんみりとしたりします。中国~九州地方の観光地をめぐるあたり、「土曜ワイド劇場」の趣だけど、軽妙で愉快なやりとりがちょっと際立っています。この人の監督した「ワイド劇場」を今やってたら見たかったんだけどな・・・。

この映画、タイトルは神様のくれた「赤ん坊」だけど、やってきたのは3~4歳くらいの男の子。妊娠したかと思ったのは勘違いだったので、神様は赤ん坊はくれなかったのです。

やくざや夜の女、野球選手くずれなど、九州の温泉地にいそうな人たちが生き生きとくらしているのを見るのも、なんとなく懐かしいような気持ちになります。あちこちに挟まれる、当時の歌謡曲っぽい歌とか・・・。昭和の終わりの頃の日本は、余裕のない人もいっぱいいいたけど、がんばってれば何とかなると思えたよなぁ・・・。

あの頃映画 「神様のくれた赤ん坊」 [DVD]

あの頃映画 「神様のくれた赤ん坊」 [DVD]